第5話 幕間・執事の手記2



 ――私、みやは今、大ぎつねの引く車のなかで、この手記をしたためめております。


 はるか様は車に乗ると同時に気を失われました。

 正確には妖狐の術によって、私が眠らせたのですが、それは良しとして頂ければ幸いです。

 主人の安眠を守ることも執事の大事な仕事ですので。


 遥様の寝顔を拝見していると、先代の主人――みすず様のことを思い出します。

 まだ亡くなられて四十九日なのに……不思議ですね、もう遠い昔のことのように思えます。

 

 それだけ私のなかで大きな存在だった、と言えば……きっとあの方は意地の悪い笑みを浮かべたことでしょう。

 だから私はついぞあの方に忠義めいたことは言いませんでした。

 遥様に対して、慇懃な物言いを重ねたのは、その反動かもしれません。


 みすず様は遥様のお祖母様です。

 ゆえあって、遥様は『お祖母様が亡くなったのはずっと昔だ』とお思いです。

 けれど、そう思わせていた術も組紐が切れると同時に解けたはずです。

 まもなく遥様はすべてを思い出すことでしょう。


 遥様は本当によくお眠りです。

 今も何やら寝言をつぶやいておられます。

 一体、どんな夢をみているのでしょうか。

 願わくば、少しでも良き夢でありますように――。

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