えびてんロケット劇場

えびてんロケット

生命の果実

「ここがホトケさんの部屋か」



甘ったるい匂いと特有の青くさい臭い。



殺風景な四畳半には桃が散乱していた。



「なんすか、ここ」



「今日の掃除現場。にしても酷いな」



二十年なんでも屋をしてもみたことがない。



新米が桃のひとつを手に取る。



その感触に、思わず桃を床に落とした。



「なんすか、これ」



「桃、だけどこりゃなかなか」



落ちた桃は腐っていたのも手伝って

盛大に果肉をぶちまけた。



中から強烈な異臭が放たれる。



腐っただけではない。



その正体は精液だった。



「男のアレだな」



「なんで桃のなかに」



見渡せば、床に転がっている桃は全てそう。



スジの途中で乱暴に穴が空けられている。



固い棒を押し付けたような穴。



そこから白い液体が垂れている。



「ホトケさんの死因は腹上死」



「まさか、桃に出しすぎ?」



部屋に充満する臭いと桃の数が物語る。



「依頼主いわく、ホトケさんの性癖らしい」



「性癖?」



「幼少期から桃太郎の誕生に興奮したって」



「どういうことですか」



「俺にもわからん。人の数だけ性癖はある」



新米は渋々マスクをつけて掃除を始めた。



ごみ袋に桃を捨てていく。



換気をしてもその臭いはとれそうにない。



掃除を進めていくうちに押し入れを開けた。



そこには、大きな大きな桃があった。



「これ、なんだと思います?」



「桃の、置物じゃね」



二人が見つめると、桃が揺れた。



「動きましたよ」



「目の錯覚だよ」



新米が大きな桃に触れると、表面が崩れた。



そこを皮切りにボロボロと崩れていく。



「こ、この人」



「転、生?」



中から現れたのは、死んだはずの男だった。






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