おまけのおまけ6
締めの話をどうしようか悩みすぎて堂々巡りした結果、当初の案を採用。
オネェなお医者さん視点です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
代々宮廷医師を勤める家に生まれたアタシは物心ついた頃から自分の性に違和感を持っていた。家を継ぐべく厳格な祖父や父親の元、医師としての勉学に励んでいたが、その違和感は成長するにつれて大きくなり、抑え込んできた願望は日に日に膨れ上がっていった。
満たされない気持ちを抱えたまま大人になったアタシは父親の助手として宮城にも上がるようになっていた。そんな中、アタシは自分に化粧を施すのが密かな楽しみとなっていたのだが、ある日それが家族にばれてしまい、アタシは「恥さらし」と
「どうした? 大丈夫か?」
行く当てなどなく、途方に暮れて街角に座り込んでいたところへ声をかけてきたのは若い兵士だった。
バースィルと名乗った彼は空腹で今にも倒れそうなアタシに食事をご馳走し、さらには身の上話も
こんなアタシを受け入れてくれるか不安があったが、バースィルの紹介というだけであっさりと受け入れてくれた。ここの人達に彼は随分と信用されているらしい。
父親の助手を務めた程度なので経験が豊富というわけではないが、救護院の近隣に医者は少ないらしい。そこでアタシは敷地の隅で小さな治療院を開くことになった。
最初はアタシを気味悪がって外からの患者はあまり来なかったけれど、出来るだけ丁寧にそして親身に治療している間にその数は増えて行った。それもおそらく時折バースィルが様子を見に来てくれたおかげかもしれない。
面倒見のいいバースィルとは気が合い、時折酒を酌み交わす仲となっていた。互いに忙しいのでそれほど頻繁ではないが、少しずつ彼の事も教えてもらった。
辺境に領地を持つ弱小貴族の出であること、弟や妹の為に仕送りもしていることも聞いた。そして、国を良くするために仲間と力を合わせて大貴族に権力が集中している今の
「あんたが口説けば断る女性はいないんじゃないの?」
「……恩人なんだ。随分前に嫁いでしまったよ」
そう答えた彼の横顔は寂しそうだった。元気づけようとアタシが恋人になってあげるというと、速攻で断られた。割と本気だったからちょっと傷ついたけど。
「頼む、彼女を助けてくれ!」
そう言って深夜に血相を変えたバースィルが1人の女性を抱えて駆け込んできたのは診療所を構えて5年ほど経った頃の事だった。
診察室に運び込まれたその女性は随分とヒドイありさまだった。全身に痣や傷跡があり、骨折している個所もある。ひどく衰弱しており、このまま放っておけば命が危うい状況だった。とにかく詳しい話は後回し。すぐに彼女の処置に取り掛かったが、彼の必死な様子にこの女性がバースィルの想い人だと察した。
後から話を聞くと、彼女は思った通りバースィルの恩人で初恋の相手だった。借金の形として裕福な商人に嫁いでいたらしいが、監禁されたうえに日ごろから暴力を振るわれていたらしい。その商人のあまりの身勝手さに怒りが沸く。全く、か弱い女の子に何してんのよ!
幸い、その女性……パトラは一命をとりとめた。しかし、過去にその商人によって折られた足の骨は自然治癒でいびつにつながってしまい、回復したとしても杖なしには歩けない。その事実を伝えても、彼女はけなげにも救ってくれたことへの感謝の言葉を口にした。本当にいじらしいんだから。困ったわ。恋敵なのに応援したくなっちゃうじゃない。
バースィルはよほど彼女のことが心配だったらしく、毎日の様に姿を現した。気持ちはわかるけど、彼女の気持ちも察してほしい。
救った直後は仕方ないにしても、やつれてぼろぼろの姿を好いた男に、しかも近衛兵団を牛耳るまで出世した相手に見られたいとは思わないじゃない。直接聞いたわけじゃないけど、会話を交わした言葉の端々にその想いは十分に伝わってきた。
それに、彼等は本懐を果たした直後だ。国の為に行動を起こしたのだから、その後始末もちゃんとしてほしい意味も込めて当面は面会謝絶を言い渡した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます