おまけ(バースィル編1)

思い付きのおまけ。主役はバースィルさんです。


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俺の実家は小さな農村を治める名ばかりの貴族だった。食うに困るほどではなかったが、領主である父も領民に混ざって畑仕事に精を出し、俺も勉強のかたわら、他の子供達と一緒に家畜の世話などの手伝いに駆り出されていた。

それでも12になった時、父はなけなしの金をはたいて俺を都の学校へと入れてくれた。当初は食費にも事欠き、酒場で働きながら授業を受けていた。そんな俺を何かと気遣ってくれたのはその酒場の看板娘パトラで、田舎者の俺が淡い恋心を寄せるようになるにはそれほど時間はかからなかった。


転機が訪れたのはそれから2年後の事だった。睡眠時間を削ることで勉学もおろそかにしなかったおかげで、アブドゥル皇子の学友に選ばれたのだ。学費は免除、そして在学中の生活も保障されることとなった。


「今度は客として来てくれ」


わが身に起こった幸運を報告すると、酒場の親父もパトラも我が事のように喜び、そしてこころよく俺を送り出してくれたのだった。




後から聞いた話によると、皇子の学友は正妃様自らお選びになられたらしい。中にはあの軍馬で有名なジャルディードの子息や大商人の息子もいて気後れしそうだったが、気の良い彼らは身分など気にせずに俺も同等に接してくれた。そこでようやく俺は友人らしい友人を手に入れたのだ。


だが、幸せな時は長続きしなかった。俺達を引き合わせてくれた正妃様が身罷みまかられ、アブドゥルは廃嫡されてしまった。

俺達の学友という特権も剥奪され、当面アルマース側の監視下に置かれることとなった。それでも皆で協力してその目をかいくぐり、辺境に送られるアブドゥルを追った。そしてそのおかげで俺達は寸でのところで彼の救出に成功したのだった。


アブドゥル死亡の報が流れ、俺達への監視も緩んだころ、久しぶりにあの酒場に顔を出すと店は閉まっていた。親父さんは病に倒れ、その治療にかかった費用の借金は瞬く間膨れ上がっていた。どうにかしてやりたかったが既に手遅れで、パトラが借金を肩代わりした商人に嫁ぐことで話がついてしまっていた。


「そんなに悲しい顔をしないで。これで父さんが助かるんだから」


彼女は気丈にほほ笑むと、その父親よりも年上の男の元に嫁いでいった。




アブドゥル復権の為の10年計画が始まった。俺は皇子の学友ではなくなったことで全ての援助が打ち切られ、学校にいられなくなった。そこで仲間達の助言に従い、俺は近衛兵団に入隊することになった。

貧乏であったが、子供のころから体を動かしてきたおかげで体格は良く運動神経も悪くはない。軍部に強い影響力を持つジャルディードが口添えもしてくれたおかげで、比較的すんなりと入隊が許可された。

目指すは団長補佐官。比較的脳筋が多いおかげで戦略を立てられるのが強みとなり、重宝されるようになる。そして仲間内では比較的早い段階で目的の地位へと上り詰めた。


ただの貧乏貴族の嫡男だった頃には、女性に全く見向きもされなかったのだが、階級が一つ上がる度に言い寄ってくる女性の数が増えた。加えて舞い込んでくる縁談の数も増えていく。中には明らかに格上の貴族の令嬢の姿もあった。

俺は初恋の女性が忘れられず、その都度丁寧に断った。そうしているうちに同性愛なのではないかと噂されるようになってしまったが、言い寄ってくる女性が減ったので気にせず放っておいた。

しかし、その噂を仲間や部下も信じていたのには辟易したが……。

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