第8話
後宮の一室で、味方の女官達の手で皇帝の正装に着替える。その昔、父が身に付けていたものだが、彼女達がこの日の為に手入れを欠かさずにいてくれたおかげで往時のままだ。これに先ほど回収した冠を被れば、多少なりとも威厳は保てるかもしれない。
「アブドゥル、こちらの準備は整ったぞ」
「分かった」
広間の準備が整ったのだろう、カリムが呼びに来た。いよいよ始まる。
護衛のバースィルを従え、カリムの先導で朝議が開かれる広間に向かう。皇帝専用の入口から入ると、私は玉座に座った。
目の前には朝議に集められた上級官吏や軍の上層部が床にひれ伏している。中でも異彩を放っているのは、捕縛されて転がされている昨日までこの国を牛耳っていた面々だろう。特にジャリルはモニールとお楽しみの最中に捕縛されたので、半裸の何とも情けない状態となっている。
「面を上げよ」
皇帝が直接声をかけることは無いので、傍らに立つカリムが全てを取り仕切る。代弁した形で声をかけると、ひれ伏していた官吏達は恐る恐る顔を上げた。
彼等は昨夜のうちに何が起こったのか具体的な事は知らされていない。玉座に見知らぬ若い男が座っているので彼等は一様に驚いている。そんな彼等の疑問に答える様にカリムが私の素性を明かすと、動揺から広間は騒然となる。
「静まれ!」
カリムはざわつく一同を叱責して黙らせると、私の暗殺未遂に始まるこの10年間に及ぶジャリル等の不正の数々を読み上げいった。それぞれが言い訳をするのだが、こちらにはカリム達が苦心して集めた確たる証拠が揃っている。それを突きつけるだけで彼等は押し黙った。
ここに捕縛されているのはアルマース家の親族ばかりだ。10年前には国内の貴族の大半を味方にして私を排斥したのだが、アルマース家が実権を握りこんで利益をほぼ独占していた。それを不満に思うものは多く、彼等を取り込むことで過去の悪行も明らかにすることが出来たのだ。
当然のことながらアルマース家の所領は没収の上で取り潰しとなる。ジャリルとモニールは死罪となり、他は強制労働と決まった。辺境地域には開墾する場所がいくらでもある。彼等には国庫から浪費した分を肉体労働で返してもらおう。
「連れていけ」
カリムの命令に従い、近衛兵が拘束された一同を広間から連れ出し、今度は入れ違いにまだ幼さの残る少年が連れてこられる。
この少年が10年前にもほとんど会うことがなかった従弟のリズクだ。運動不足らしく太っているが、上品な顔立ちをしている。しかし、その瞳からは全く意志を感じられない。
彼を溺愛するモニールはその日着るものに始まり行動の全てを指示していたらしい。仲間達が人形の様だと評していたのも頷ける。
「リズク皇子、帝室から除籍の上、
カリムがそう宣告すると、彼は何やらブツブツ言っている。傍にいる近衛兵に何を言っているか聞き取らせると、どうやら母親が居ないのでどうしていいかわからないらしい。依存もここまでくると気味が悪い。
「かまわぬ。連れていけ」
リズクは少し抵抗したが、屈強な近衛兵にかなうはずもなくそのまま広間から連れ出された。こうして全ての断罪が済み、残った官吏達に改めて次官としてこの国を動かして来たカリム達がそれぞれの長に就くことを宣告し、この日の朝議は終了した。
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