第3話

たぶん、誰も想像したくないと思われる腹の出たおっさんと容色の衰えを隠し切れないおばさんの閨事を思わせる記述があります。



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私達が向かったのは、歴代の正妃が使用する後宮で最も品格のある部屋だった。宮城から追い出されるまでは、私のもう一人の母で父の正妃ナディアの住まいだったが、現在は叔父の正妃モニールの部屋となっている。

質素を旨とした母上が住んでいたころと比べ、部屋は華美な装飾であふれかえっていた。調度品には金や銀が惜しみなく使われ、精緻な工芸品が所狭しと並べられている。贅沢三昧な日々を送っているのは知っていたが、彼女の為に一体どれだけの血税が無駄に使われたのか怒りすら覚えるほどだ。


後宮の女帝として君臨する彼女だが、気分屋で気に入らないことがあるとすぐに女官に当たるので、忠誠を誓っているのは彼女の取り巻きぐらいだ。その取り巻きも一緒になって女官をいびるので、主従揃って相当恨まれている。

そんな女官達を味方に付けたことで私達も後宮内の情報が集まり、行動を起こしやすくなった。今も本来ならば、部屋の主の為に控えて居なければならないのだが、結託した女官達が取り巻きを遠ざけてくれたおかげで周囲の人払いは済んでいる。


その女官達の情報では、宰相のアルマース家当主、ジャリルが足しげく通ってきているらしい。表向きは引きこもっている叔父へ政務の報告をしに後宮へ来たついでにモニールのところへご機嫌伺いをしている事になっている。

しかし……。


「あぁぁん」

「はぁ……はぁ……」


部屋の最奥、寝所からはいかにもコトの最中を思わせる喘ぎ声が漏れ聞こえている。既に深夜。ここを押さえれば彼らは言い逃れできなくなる。

既にバースィルと彼の部下が配置についている。私が視線を向けると、彼らは一気に寝所へ踏み込んだ。


「きゃぁぁぁっ」

「な、なにっ」


後から呼ばれて私が寝所に入ると、既に複数の行燈あんどんに火が灯されていた。室内の状態がはっきりと見て取れ、豪華な寝台の上には拘束された半裸の男女が座らされていた。

10年の歳月を経ていても忘れるはずはない。容色の衰えを隠しきれていない女性の方は叔父の正妃モニールで間違いない。そしてその女の不貞の相手はひげを蓄えた壮年の男で、紛れもなく宰相のジャリルだった。


「離せ、無礼者」

「こんなことをしてただで済むと思うなよ」


この状態でも強気でいられるのは、踏み込んできたのがバースィルにカリムといった下位の人間だからだろう。叔父をそそのかして手中にした権力は、叔父が帝位についているからこそもたらされたものだ。その巨大な権力を背景にこの国を思いのまま操っているうちに、それが自身のものだと錯覚していったに違いない。

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