wsd戦士創作
とぅる
孤独な閃光
「ウイング・ヴォリターレ!」
青白い光線が異形の怪獣を貫く。そして、名も知らぬ怪獣は爆発と共に散っていった。それを確認し、身体についた土を払った。
怪獣を倒したのは、頼まれた訳でも、苦しんでいる者がいた訳でもない。私が降り立った頃には、この星は既に怪獣の爪痕だらけであった。太陽の光も届かず、静かで、ひんやりとしたこの星は、命の証拠だけが無惨にも散らばっていて。手遅れとは知りながら、使命感に駆られたのだ。
この星にはヒーローがいなかったのだろう。
静寂が後味を悪くする。孤独が案外堪えることに気づいたのは最近のことだ。やはりこいつを連れてきたのは正解だったのかもしれない。
「おいで、ドラ」
岩陰に手を伸ばすと、しゅるしゅると器用に私の腕を登るトカゲ。赤と茶色の鱗を持ち、どことなく見覚えのあるフォルム。
ドラは、私が地球を去る直前に出会った。後輩に別れを簡単に告げて早稲田を離れた後、地球を少し巡ることを思い立った。地球は案外広い。少し離れただけでも全く違う景色を魅せてくれる。地球の色んな面を見てから宇宙に旅立つことにしたのだ。その過程で火山の頂上を訪れたとき、ドラと出逢った。一目でわかった。これは、奴の、マグマンドラの種族のものだと。私がただ立ち尽くしてトカゲを見つめていると、トカゲは私の足元にすりよってきた。人慣れしているのか、はたまた餌をくれるとでも思ったのか。私は気づけば、そのトカゲを掬いあげていた。それから地球を離れた今も、共に行動している。
私の肩まで登り、ぴったりと頬を寄せてくる。困った甘えん坊さんだ。それに少し重くなったんじゃないか?
ドラの頭を人差し指で軽く撫でると、目を細めて喜ぶ。ドラは私に地球のことを思い出させる。しかし、この星は、思い出にひたるにはあまりに殺風景だ。来たばかりだが、これ以上ここにいてもお互い何もないだろう。
「行こうか」
宇宙を移動するときは、息ができるようにドラを風のベールの中に包む。その合図に、顎を二回なぞってやると、ドラは私の指を噛んだ。
「ドラ?」
珍しい抵抗だった。今までは私の側ならどこでもいいという顔をしていたのに。
「まだ、ここにいたいのか?」
返事はない。言葉を理解できているかすら分からないのだから、当然といえば当然だが。ドラは私の足をつたって地面に降りた。
瓦礫と静寂の星。ある観点では美しいと言えるが、私はどうしても好めない星だ。しかし、ドラはここがどうやら気に入ったらしい。食料もないであろうこの星を。
灰色の星に、赤色は大層目立つ。ドラは私の周りをくるくると回り、私の顔を伺う。
…もしかしてお前は、ここには私とお前のみだから、この星に居たがっているのか?
自惚れだと自覚しつつも、心が安らぐ。しかし、私はそんな閉鎖的な満足を求めて旅をしている訳ではない。
「私はお前だけのヒーローではないんだ」
膝をつき、指を鳴らす。ドラを風のベールが包む。ふわりと浮くドラの身体。まだ感覚が慣れないのか、ドラは手足をばたつかせて安定を得ようとする。しかししばらくすると、降参したように大人しくなる。ベールごとドラを従わせ、空っぽの星を離脱した。
光となって、宇宙空間を貫いていく。目的はない。ただ、地球が小さくなる方向へと進んで行くのだ。
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