杉ちゃん医療編 完結 二人の杉ちゃん

増田朋美

第一章

二人の杉ちゃん

第一章

立とう、と思った。でも、そんなこと、当の昔にできなくなっていたことを忘れていた。もはや、自分の体、というよりか、重たい分銅を持ち上げることを強いられる、奴隷のような気持ちになった。つまり何をしても、自分の体を持ち上げて、立ち上がる、ということは、 水穂にはできなくなってしまったのである。そうなると、手にくっついた血液も、拭き取ることはできなかった。拭き取るには、タオルかちり紙がひつようだ、

それはここにはないから、布団のある枕元に取りに行かなければならない、そしてそのためには立たなければ。こんな単純素朴な作業なのに、ドキュメンタリー映画のような文章ができるなんて。自分もなさけないほど、衰弱しきったんだな、とわかる。

玄関先で、ブッチャーが何かしゃべっている声がする。相手は、杉ちゃんとちがってやくざの親分みたいな口調ではない。しかし、やっぱり一般的に流布しているしゃべり方とはちょっと違っていて、明らかに上級階級のものだった。言語に長けていた水穂は、発音や訛りなどで出身国をある程度当てることができた。それを応用すれば、誰がやってきたのかだいたいわかる。いまブッチャーと話しているのは、できれば、このときに来てもらいたくない、迷惑な人物だった。そして、自分も、立ち上がって布団に逃げることもできないから、ずっとその場に居なければならないのだった。

「いや、ごめんねえ。しばらく顔を出せなくてさ。ほら、ずっと家の屋根を塗り直してもらっていたので、職人さんがいてくれる間は、やっぱり家にいなくちゃならないからね。ごめんごめん。」

「大変でしたねえ。蘭さんのお宅はたしか、瓦屋根ではないから、塗り替えが大変なのではありませんでしたか?一つ一つ外せばいいというわけではないですし。」

「まあね。結構そこが苦労するよ。それでも塗りなおせてよかったよ。で、ブッチャー、水穂はどうしてる?」

「縁側で寝てますよ。今日はあたたかいから、外へ出たいと言い出して。」

ブッチャーにしても、先日森さんの息子が殺人未遂事件を起こし、水穂がそれでとんでもない大損をしたのは、蘭には話したくなかった。だけど、縁側で寝たいと言い出したからあまり悪化はしていないのかなあ、なんて、考えていたのである。

「そうか。よかった。すまないけどさ、また席はずしてくれないかな。」

「何ですか、蘭さん。俺、青柳先生から変なことしないように見張っててと、よく言われているんですけどね。」

蘭がいたずらっぽくそういうと、ブッチャーは、また困った顔で見た。

「しかし、何で見張りをつけなきゃいけないんだ?杉ちゃんだって、つかないそうじゃないか。」

「蘭さん、俺より年上なんですから、理由くらい、感づいてもらえないでしょうかね。変に取り乱して、水穂さんが悪くしたらいけないから、これでしょう?」

俺も、語彙力が欲しい、とブッチャーは切実に思った。もう少し、俺は、口がうまかったら、どんなにいいだろう。もう少し間接的に、でも確実に、蘭に伝える技術があれば。蘭の反応は、予想した通りだった。

「そのくらいできるよ。それに、水穂だって、縁側に出れるくらいにまでいったんだから、もう倒れたりはしないだろ。」

蘭の言葉には、人をバカにするな、という意味もあるとブッチャーは、すぐわかってしまった。くちはうまくないけれど、そういうところを感じる能力はあるブッチャーは、好きにしてくれ、とだけいって、その場を離れた。

「おい、久しぶりだな。やっと屋根の修理が終わって、こっちに来れたよ。大分、寒くなったけど、今日は小春日和で、暖かいな。今日は縁側へ出たそうだけど、そこまでできてよかったじゃないか。」

縁側に敷かれた複数の座布団の上で、水穂が寝ているのは予想通りだった。でも、返答はなく、かえって来たのは、咳であった。それも、止まるのには時間がかかった。とうとう、口の中から、血液が漏れだしてきて、拭き取ることすらできないのを、蘭に目撃されてしまったのである。

「どうしたんだよ、お前!こないだ、富士花鳥園まで行ってきたと杉ちゃんがいうから、いいのかなと思って見舞いに来たのに!」

蘭が急いで水穂に近づくと、水穂の手のひらから血液が流れ落ちた。

「あ、ごめん。」

そこだけ発言するのがやっと。蘭は頭をぶってみたが、痛かったので、現実だと思いなおした。

「本当にどうしたんだよ。いつからだ、おかしくなったのは。だって、杉ちゃんの話では、」

「もう立てないよ。体が重たくて、分銅になったみたいでさ。」

「そうか、じゃあこうすればいいじゃないか。誰かに支えてもらえれば立てるだろ。」

蘭は横になっていた親友の肩に手をかけて、無理やり座らせるような姿勢にさせた。

「一体どうしてここまで。なんでもっと早く言ってくれなかった?」

答えはでなかった。

「黙ってないで何か言ってよ。も、もしかしてだけど、波布の仕業かい?波布のやつ、またここへきて、お前のところに何かした?」

また答えは出なかった。

「何か言ったらどうなんだよ。ほんとにさ、都合のいい時黙ってないで、証言でもしてくれればいいのに。」

仕舞には苛立ってしまうのであるが、答えは、期待をしていた答えではなく、これである。

「蘭。ごめん、腕を取って。」

「なんでだ!」

思わずでかい声で怒鳴った。

「腕を取ったら、お前、間違いなく倒れるぜ。それじゃあ、まずいだろ。こんなところで倒れたりしたら、お前、」

「吐き気が。」

「うるさい!吐くんだったら吐いてしまえ!こんな古ぼけた着物一枚汚したって、代理の着物なんて、いくらでもある!」

返答を待つ前に水穂がせき込んだ。とにかく立て続けにせき込んだ。彼の肩を掴んでいる蘭の着物の腕は、赤く染まってしまった。やるせなくなった蘭は、悔し涙を流しながら、水穂の体をさらに強く抱きかかえる。

「もう、蘭さん、何をやってるんですか。そんなことしている暇があったら、布団に寝かせてやらなくちゃ。もうね、蘭さんにはできないことですから、そういうときは、すぐに呼び出してください。」

ブッチャーが強引に間に入ってきて、二人を引き離した。

「ほら、水穂さん。もう辛いんだったら、早く寝ましょうね。もうすぐ夕方になりますから、浴衣一枚では寒くなります。いくら今年は暑いといっても、夕方は冷えますよ。その前に、布団に入ってあったかくしましょうね。はい、いきますよ。せえの、よいしょ。」

ブッチャーは、水穂をよいしょと持ち上げて、お姫様抱っこ様に抱きかかえ、布団に寝かせてやった。

「痛いかもしれないですけど、背中、叩きますよ。詰まらせたら、致命傷になりますから。苦しいかもしれないですが、ちょっと我慢してください。」

ブッチャーは、水穂の口元に布を当てて、反対の手で背中を三度叩いた。

「おい、なにをする?苦しそうだろ。そんなときに、背中叩くなんて、」

蘭が慌てて、それを止めると、

「蘭さん、時には荒療治が必要なんです。そういうときもあるんです。もう、変な倫理観は持ち出さないでください。」

ブッチャーは無視してもう三度背中を叩く。大分、この作業にも慣れてくれたらしい。もう三度叩くと、やっと期待していた内容物が、どっと出る。この時、ブッチャーもびっくりしてしまうことは、なくなっていた。これを完了すると、やっと落ち着いてくれたらしく、水穂も静かになった。

「あ、よかったよかった。じゃあ、静かに休みましょうね。夕飯にはまだ時間があるし、しばらく横になって休んでいてください。今日も、残さず食べてくださいよ。でないと、俺たち、またつらい思いをしてしまいますから。」

水穂は力なく頷いた。ブッチャーは、口元に取った布をとって、あおむけに寝かせてやり、そっとかけ布団をかけてやった。

「ブッチャー、薬は?」

思わず蘭が聞くと、

「ああ、あれですか。あれは危ない薬ですから、使ってはいけないと言われているんです。実際、それのせいで、水穂さんも大損をしましたので、俺たちは使わせないことにしました。その代わり、こうして、たまったもんを出してやるほうが早いかなと。その時は辛くて疲れる作業だけど、本人もこうしたほうが、せき込む頻度は減るので、そうしてくれと言ってました。」

と、答えが返ってきた。

「大損?」

蘭が聞くと、

「そうなんですよ。もう大変だったんですよ、あの時は。だからもう二度としたくありませんから、こういう荒療治も、否定しないことにしたんです。」

と、ブッチャーは答えた。

「おい、大損って何だ?」

「知らないんですか?」

ブッチャーがそういうと、水穂も、もう聞かないでいいよ、と、ブッチャーに目配せをした。

「いったいなんのことだ?二人とも、何かあったのかよ。」

「ありましたよ。本当につらかったんですから。水穂さんはもちろんの事、俺も、恵子さんも。原因を調べてもらったら、いつも飲んでいた睡眠薬が悪いと、お医者さんに言われたんで、これ以上飲んでたら、よけいに悪くしますから、もう使わないことにしたんです。その代わり、こうやって中身を出す方法、教えてもらいました。無理やり寝かしてしまうより、出せるもんはどんどん出したほうが、本人も楽になるそうです。仕方ありませんね。意識を変えるのも、大事なことですし。」

「おい、ブッチャー、ちょっと待ってよ。だっていつも飲んでた薬なのに、それがいきなりいけないことになるなんて。」

蘭は、思わず、疑問をぶつけてみた。

「よくあることじゃないですか。薬の変更なんて。蘭さんだって、風邪をひいて病院に行って、しばらく薬を飲んでみてもよくならなかったら、ほかのやつにするでしょう。それに乗じて、前に使ってたやつは、やめにするじゃありませんか。」

ブッチャーが、答えを出すと、

「だけど、前のやつは引き継いで、新しいのを追加するということもある。おい、どういうことだ!二人とも、何かあっただろ!僕が、屋根を塗りなおしてもらっている間に!」

蘭は、少しばかり声を荒げてそういってしまった。

「まあ、確かにそうですが、それを一々一々話していたら、かわいそうじゃありませんか。患者さん本人の前で、苦しかった時のことを朗々と語るのは、ちょっと嫌でしょう。まあ、お医者さんがそういうのはあるかもしれないですけどね、でも、俺は、ちょっと、本人の目の前でそういうのは、嫌だなあ。」

「そうかもしれないが、知る権利というものもあるはずだ。水穂だって、僕にとっては、かけがえのない親友なんだし。知っておいてもいいじゃないか。そういうことはいけないのかい!」

「それなら、蘭さんがお医者さんに聞いてみてください。俺はちょっと、水穂さんのことがかわいそうで、お話はできません。それだって、水穂さんの事を思って言っているんです。本人に苦痛を与えるようなことをわざわざやるなんて、俺はできませんよ!」

「これは、ブッチャーさんのほうが勝ちだよ。もう、あんなことされたくはないし、そういうのをもたらす薬も欲しくない。それにね、今の今まで、屋根の塗り替え作業にかこつけて、何にも気が付かないままでいたのに、いざとなって、すぐに騒ぎ立てるなんて、偽善者にもいいところだ。そういうことこそ、本当のいい迷惑なんだよ。」

水穂が、細い、小さな声でそう言った。

「そうですよ、蘭さん。今まで何にも知らなかったのに、コロっと態度を変えられて、支援者に回る人は、あんまり信用できませんよ。それで被害を被る人だって、たくさんいるじゃありませんか。」

「大体な、蘭みたいに、羽二重の着物を、何枚も持てるような人は、こういうことも理解できないと思う。羽二重なんて、何枚も用意できるようなものじゃない。」

ブッチャーと水穂が、相次いでそういうことを言ったので、なんだか自分がはめられたような気がしてしまった蘭だった。

「何だよ!理解できないって!心配してそういっただけなのに!」

「だけど、そういう余分な心配は、こっちは、非常に困るだけなんだよ。そうやって、やじうま精神で、騒ぎ立てられるのは一番困る。そういう心配は初めからないほうがいい。」

「なんでだ?お前がそういうこというはずがないじゃないか。ずっと、二人そろって信頼してやってきたじゃないか。それなのになんで今更?」

「蘭、知らないほうがかえっていい場合もあるんだよ。蘭が知ったら、今までの信頼関係は、めちゃくちゃになるでしょう。もう、お前が、よけいなことして、かえっておかしくなるのも嫌だから、ここで静かに過ごしたほうが余程いい。そうさせてくれる?」

「おい、水穂!お前、、、。」

蘭はここで、本当に信頼関係を結びたいのであれば、雇用関係を結ぶがいいと罵られたことを思い出す。

「あいつだな!あいつの仕業だな!おい、目を覚ませ。たびたびこっちに来て、いろいろ指示を出しているな。あいつは契約書で結んだ雇用関係以外、何も信じないんだから、僕らは、それを超えた観察をしなくちゃ!」

「あいつって、誰の事だ?」

「とぼけるな!波布の事だ!あの時、ああいう別れ方をしたんだから、まだまだお前を狙ってるんじゃないのか!」

「蘭さん。もういい加減にしてください。確かに、ジョチさんが、たびたびこっちに来てくれるのは事実です。それは確かです。でも、そうやって、来てくれなかったら、お医者さん紹介してくれたりとか、介護弁当会社紹介してくれたりとか、してもらえませんでした。今や、俺たちにとっては欠かせない味方ですよ。それでいいじゃありませんか。今回の事件のことだって、ずいぶん助けてくれましたよ。俺たちは、これからも手伝ってもらうつもりです。てか、そうしなければ、俺たち、こうやって一緒にはいられないと思います!」

ブッチャーがそういうと、水穂も申し訳なさそうに頷いた。

「なんだ!騙されるなよ、ブッチャーも、水穂も。そうやって優しく手を出して、弱いものを味方につけて、いざという時に、無理矢理従わせるのが、波布のやり方だよ!」

「蘭さん。そんな加藤さんの話なんてどうでもいいじゃありませんか。それは、蘭さんの会社の話でしょ。それと、水穂さんのことは一緒にしないでください。それに、蘭さんの会社の話は、大昔のことで、今じゃないんですから、そんなことで、騒がないで、今の話に目を向けましょうよ。こういうことが積み重なって、国家紛争がいつまでたっても解決しないんだって、青柳先生も言ってましたよ。」

「国家紛争ってさ、、、。そんな大掛かりなこととは関係ないじゃないか。」

蘭は、大きなため息をついた。

と、その時、製鉄所の柱時計が五回なった。

「あ、もう五時だ。じゃあ、そろそろご飯にしましょうね、水穂さん。ご飯の時間は時計より正確ですなあ。」

ブッチャーはよいしょと畳から立ち上がる。

「ちょっと待て。夕食は恵子さんが持ってくるはずでは?」

蘭は当たり前のことを言ったつもりだったが、

「ああ、恵子さんなら、実家におかえりになりました。水穂さんが、あまりにもご飯を食べてくれないものですから、しびれを切らして、出ていきましたよ。青柳先生に、しばらくお暇させてくださいって言って、返事も聞かずに帰って行かれました。」

と、ブッチャーは答える。

「ちょっと待て!恵子さんの実家は、東北だったよな。それはこの前の大地震で壊滅したはずでは?」

「そうなんですけど、もう、あまりにも鬱状態がひどいので、あったかい温泉の湧いている、東北地方でゆっくりするそうです。暫く、水郡線の一両電車に揺られて、のんびり過ごしたいって。」

「おい、どういうことだ!水郡線の一両編成って。」

「だから、恵子さんの実家は、安積永盛駅の近くなんですよ。本人からきいてないんですか?福島県郡山市!」

「そうだけど、なんでまた今になってやめて行ったんだよ!じゃあ、水穂、お前、ご飯なんかどうしているんだ!」

「だから言ったじゃありませんか。俺が代わりに看病しているんです。時折、心配だといって、カールさんも来てくれます。」

「そんな、無責任な!」

「もう、時間がなくなりますよ。ちょっとどいてくれませんか、すぐにご飯を持ってこなきゃいけないので!」

「おい!」

蘭が驚いている間、ブッチャーは、食事を取りに行ってしまった。

「なんで、恵子さんも出ていっちゃったんだよ。お前、彼女がいなかったら、何も食べられないだろ。もし、恵子さんが出ていくって言いだしたら、お前は力づくで止めなくちゃ。いつ出て行ったんだ?」

「二、三日、前から。もう、お役御免にさせてくれって、すごい半狂乱になってそういったんだよ。」

「お役御免って、お前にも、困ると反抗する権利は保証されているぞ!」

「もう疲れたよ。お前みたいにそうやって、熱く語られると、いい迷惑なだけだよ。もう、この体では実行すらできないんだから。少し黙ってくれ。」

「もう、、、。」

蘭は、じれったいというか、やるせないというか、どうしようもない気持ちになって、大きなため息をついた。

「はい、持ってきました。俺、恵子さんみたいに料理の達人ではないのですが、頑張って作ってみましたからね。はい、白がゆです。頑張って、茶碗一杯食べてくださいね。」

ブッチャーが戻ってきて、再び畳に座り、白がゆの入った茶碗の乗った盆を畳の上に置いた。

「じゃあ、行きますよ。今日こそ、茶碗一杯完食しましょうね。第一目標は、そこですからね。」

ブッチャーは、さじを水穂の口元に差し出した。水穂は頷いて中身を飲み込んだ。

「はい、もう一杯。」

もう一度、同じことを繰り返す。

「もう一杯行きますよ。」

再び、同じことを繰り返した。

「よし、次。」

ブッチャーがもう一度さじを差し出すと、水穂は、首を振った。

「なんでですか。三杯食べてもう終わりなんて、あんまりにも足りなすぎますよ。そんなに俺の作ったのは、まずいですか?」

「すみません、もういいんです。」

「じゃあ、食べたくないの?」

「はい。」

ブッチャーは大きなため息をついた。

「まあねえ、、、。しょうがないかあ。無理して食べると、吐き出す可能性もありますからねえ。それでは、まずいですから、ここで終了しますけど、」

「ちょっとまて、カレー用のさじ三杯でもういいにするのか?」

蘭は思わず口を挟んだ。

「そうですよ。毎日こうです。だから、コンビニの弁当一パックくらいの分量で、一食どころか、三食以上確保できます。まあ、このくらいあればいいということです。無理して食べさせると、虐待につながるので、やめるようにしています。」

「虐待って、栄養を取らなくちゃ。」

「そうですけど、やっぱり俺じゃだめなんですよ。こういう時は、女の人のほうが有利なんですよ。近所の人に言われちゃいました。あんまり食べろ食べろと怒鳴ると、脅かしているみたいでかわいそうだって。まあ、仕方ありませんね。俺は、体もでかいし、そう見えちゃうんでしょう。」

「そんな、、、。おい、水穂。」

声を掛けても反応はなく、顔を見ると、疲れてしまっていたのか、眠ってしまっていた。

「眠っちゃったか。」

「さて、俺も帰り支度しなきゃ。この後、カールさんも手伝いにきてくれますから、あとは任せておきますよ。店が終わり次第、来てくれるそうです。」

首を振り振り、ブッチャーは、よいしょと立ち上がった。

蘭は、がっくりと肩を落として、自分自身が受けた大損を見つめていた。

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