第288話

「私が意味なくアイを連れて来たと思うの?」


「えっ? それ、どういう意味?」


 どさくさでワイバーンに乗ってしまったことを、失敗したなぁ……と思っている私にカタリナが問いかけてきた。


 カタリナは前を向いているから当然だけど、その表情は見えない。

 手から、背中から、カタリナの体温が伝わってくる。

 上空は少し肌寒い。

 カタリナの体温が心地よかった。

 こうしていると、カタリナが本当に生き返ったんだと実感する。

 自分なりに考えてみたけど、カタリナの問いかけの意図は分からない。

 黙って答えを待つことにした。


「たしかにムオーデルの核を叩くだけなら、恐らく私にも出来るわ。でもね……何て言うのかな。アイを連れてきた方が良い気がしたの」


「ん? カタリナの勘ってこと?」


「そうね。勘よ。エネアも何も言わなかったってことは、もしかしたら私と同じようにかんじたのかもしれない」


「そっかぁ。私、またやらかしちゃったかなぁって思ってたよ」


 何かにつけて理論派のカタリナにしては珍しい。

 連れてきて良かったって思ってもらえるように頑張らないと……。


「ヒデもそうだけど、アイも不思議よね。何か他の人には無いものを持っている……何故だか、そんな気がして仕方ないわ」


「え? 私なんか、ホント普通だよ? ヒデちゃんが何か持ってるっていうのは同感だけどね~」


「ヒデも普通って言ってたわね。普通って流行ってるの? 普通の女の子は、グレイブ持って竜や巨人と戦わないと思うけどな」


 グレイブ……って薙刀のことだっけ?

 言われてみればたしかに私も『普通』じゃ無いのかなぁ?


「あ、あれ見て! あのクルマ。あれに一組乗っているわ」


「どれどれ? あ! あれか~。カタリナ、目が良いんだね」


 遠くに独特な色合いのジープが走っている。

 特に損傷らしい損傷の無いその車は、私には実物にしか見えない。

 乗っている人達の姿までは分からなかった。


「恐らく本命じゃあ無いと思うけど……わざわざ見逃す必要は無いわね。近付くわよ」


「うん!」


 大してスピードが出ていなかったジープが、急に猛スピードで走り始めた。

 たぶん、私達に気付いたんだと思う。


「アイ、せっかくだから貴方が攻撃して。私はワイバーンの操縦と、ガーゴイルとの視覚情報の共有、戦闘中のゴーレム部隊の指揮で集中が難しいわ。ワイバーンの背から、動いている的を狙うのは少し厳しいの」


「そっか、そうだよね。任せて!」


 ムオーデルに取り込まれた機械は、正確にその性能を(魔法的に?)コピーされるっていう話だったけど、今回はそれがマイナスに働いたみたい。

 カタリナの操るワイバーンの速度は、ジープのそれを大幅に上回っている。

 あっという間に距離が縮まり、ムオーデルが攻撃を始めた。

 次々に撃ち出される銃弾。

 ワイバーンは急停止と急加速を繰り返して、見事にそれをかわしながら近寄っていく。

 ジェットコースターより、よっぽどスリルがある。

 ……ちょっと楽しかったのは内緒にしておこう。


 私だって、それなりには魔法を使えるけどカタリナやエネア、それからトリアや沙奈良ちゃんのように大規模な魔法は得意じゃない。

 私が得意なのは……結局これ。

 ヒデちゃんからもらったバッグの中にしまっておいた薙刀を取り出し、片手だけど上段に構える。

 そのままナナメに一閃。

 銀色の光がムオーデルの乗るジープに伸びていく。

 その軌道は振るわれた薙刀の斬撃そのもの。

 まるで銀色のおっきな刀身が飛んでいくような感じでジープごと全てを切り裂いていく。

 アスファルトの地面に大きく走る亀裂……動いている敵は、どうやら居ないみたいだった。


「……やっぱりアイの魔法の破壊力は規格外よね。これで攻撃範囲も広ければ何も言うことは無いのだけれど」


「無理言わないでよ。これは薙刀の技の延長線だもん。それより……全員やっつけられたかなぁ?」


「えぇ、魔力の残滓すら感じない。消え失せたみたいね。ただ……やっぱりでは無かったみたいだわ」


「そっかぁ。じゃあ、次にいこう。沙奈良ちゃん達も心配だし……ヒデちゃんのところにも早く行きたい」


「そうね……少し速度を上げるわよ?」


「うん!」


 ◆


 さっきと同じ要領で3回、ムオーデルの乗るジープを倒した。

 沙奈良ちゃん達の居る方に向かった車は、エネアの魔法に巻き込まれて破壊されたらしい。


 つまりは残り3部隊。


 カタリナのガーゴイルが見張っていた分は、もう倒したんだけど結局ハズレだった。

 あまり主力と離れているとは思えないから、多分もうジープを降りてどこかに隠れているハズ。

 カタリナも同じ意見みたい。

 さすがにもう穴掘りをしている時間は無かっただろうし、手近な建物の中に隠れていると思う。

 ジープが本物のジープならどこかに乗り捨ててあるハズだけど、ムオーデルのジープは魔力で再現しているだけらしいから、アテには出来ないみたい。


 ……ズルだ。


 少しでも動きが有れば、カタリナがまた作り出したガーゴイル達が見つけてくれるハズ。

 なのにガーゴイル達から、今のところ知らせは無いらしい。

 じっと隠れているんだろうな。

 今は残っている建物の多いところを優先して探している。

 倒れたり、燃えちゃったらしい建物が多いのは、この付近で行われた自衛隊とモンスターの戦闘が激しかったことを、見る人に訴えているように思えて仕方ない。


「少なくとも、この辺りに一組は居る筈なのだけど……」


「うん、たしかに居そうだね。地面に降りてみる?」


「そうね。その方が探しやすいかもしれない」


 ワイバーンの背から、建物の中を覗き込むぐらいじゃ、建物の中に隠れているムオーデルを探し出すことは難しい。

 かくれんぼかぁ……何故か昔から得意だったなぁ。

 カタリナがワイバーンを着陸させる。

 ちょっとした豪邸……だっただろうお宅の真ん前。

 戦闘に巻き込まれて燃え落ちたらしく、もうすっかり見る影もない。

 さすがに、この中には居ないよね。


「アイ、今から特殊な人形を創るわ。かなり集中しないとまだ難しいから、辺りを警戒しておいてくれる?」


「うん、任せて」


 私も一応は【危機察知】を持っている。

 トムちゃんやヒデちゃんにはかなわないけど、それなりに役には立てるハズ。

 ヒデちゃんはもちろんだけど、お義兄ちゃんやトムちゃん達にも無事でいて欲しい。


 あと少しだけ待っててね……必ず助けに行くから。

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