第287話
「カタリナさん、周知完了しました。自警団の皆さんは、私達の攻撃の後に残った敵を狙う手筈になっています」
「サナラ、ありがとう。それじゃあ……いくわよ?」
「うん」
「はい」
「いつでも、どうぞ」
満足そうに頷いた後、目を閉じて呪文をゴニョゴニョと口の中で呟いているカタリナ。
魔法の大半は、この詠唱っていうものが要らないハズなんだけど、ゴーレムなんかを作る魔法に関しては、詠唱した方が良いらしい。
詠唱無しでゴーレムやガーゴイルを作るのは、クリストフォルス君に言わせれば『魔力の無駄使い』という話だった。
他の魔法も、本当なら呪文を覚えてゴニョゴニョやった方が良いみたいなんだけど、そうやって魔法を使うとなると詠唱中は完全に無防備になっちゃうし、モンスターと戦っている時には使いにくいと思う。
結局、ケースバイケースってことになりそう。
「…………ここに仮初めの生命の発現を乞う。出でよ、
最初は小声で呟いていたカタリナだったけれど、いつの間にか聞き取れる声になっていたし、最後は叫ぶようにして魔法の名前を唱えた。
やっぱり、ちょっとカッコいい。
本当は真似したいんだけど、ヒデちゃんが『中二になりたくなければやめとけ』って言うんだよね。
……何で中二?
「よし、食い付いた! 今よ!」
カタリナが魔法の効果を確認して合図した。
ゴーレムが、ガーゴイルが、次々に倒れていく。
その分、こっちへの攻撃は目に見えて少ない。
エネアが、沙奈良ちゃんが、そしてカタリナが大規模な魔法を次々に放つ。
私も使える魔法の中では一番スゴいのを使ったけど、ちょっとタイミングが遅かったような気もする。
エネアはいつか見せてくれた光の精霊魔法。
威力はその時とは大違い。
沙奈良ちゃんは爆発の魔法。
さっきも戦車を壊すのに使っていたし、最近のお気に入りらしい。
今回は、何度も何度も魔法の大爆発がムオーデルを襲った。
カタリナは……空から隕石みたいなものを次々に降らせている。
ちょっと凄すぎて、私の魔法の存在感が無い。
ゴーレムやガーゴイルの損害は気にしなくて良いっていう話だったけど、あれじゃあたしかに気にしていられないよね。
自警団の人達も呆気に取られているみたい。
そもそも生き残り(?)が見当たらないし、攻撃したくても出来ないでいる。
「……核を討伐出来たのかなぁ?」
「どうでしょう? 煙や土埃が凄くて何とも言えません」
「念のため追撃しておく?」
「今、ガーゴイルの生き残りに捜索させているから、ちょっと待ってて……」
カタリナがそう言い終わるか終わらないかのタイミングだった。
マシンガンの独特の発射音が私達の向かって左手、驚くほど近くから聞こえた。
私達の誰にも気付かれず、ここまで接近していたとは思えない。
多分だけど、今さっき復活したんだと思う。
攻撃自体はエネアが反射的に使った防壁魔法に当たってくれたけど、今のはかなり危なかった。
すかさず沙奈良ちゃんが反撃。
無表情なまま消えていく男の人。
もちろん知り合いじゃ無いけど、ちょっとさすがにキツい。
最後に一瞬、目が合った気がした。
「見つけた! 多分、あの中よ。地面を掘って隠れている連中が居るわ。向かって左側……かなり後方。まさか、こんなところに本隊が居たなんて……」
そっか……自衛隊の人達の幽霊だもんね。
無線とかで指示するだけなら、かなり離れていても出来るハズ。
「前方、また復活して来ています。戦闘機や市街地仕様の戦闘車輌の姿も有りますね……やり直しです」
沙奈良ちゃんが少しガッカリした様な声で告げた。
まぁ、あれだけやって駄目だったんだから気持ちは分かるけど……。
「ぼやいていても仕方ないわ。カタリナ、もう一度やりましょう。今度は本隊の位置も分かったのだし」
「ええ、そうね。視覚情報を貴方達と共有出来ないのが難点だけど……え? ちょっと待って、本隊らしき一団がバラけたわ。どれが本命なの?」
カタリナが慌てている。
どうやらカタリナのガーゴイルに、指揮官の人の幽霊が気付いたみたい。
狙われないように、バラバラに逃げ出したっていうことだと思う。
「カタリナさん、それ全てガーゴイルで追えますか?」
「……無理。そんなに残ってない。八方向、全てに同じ人数。見失わないようにするのは困難だわ」
「だったら……私、追い掛けて来るよ。こっちに向かって来る中には居ないハズだよね?」
「アイ、1人で動くのは危険よ! それに……連中、クルマに乗っているわ」
「だったらカタリナ、私をワイバーンに乗せて! 急がないとまたどこかに隠れられちゃう!」
「アイ、カタリナ、行って来て。ここは私とサナラで防ぐわ。どうせ、正面のムオーデルを壊滅させても終わらないし、守るだけなら私達だけでも充分に可能よ」
「そうね……それしか無いか。アイ、行くわよ!」
「うん!」
カタリナが何も無かったところに手品みたいにワイバーンの人形を取り出す。
最近は慣れて来たけど、やっぱりスゴい。
カタリナの後ろに乗って、ちょっと羨ましくなるぐらい細い腰にしがみつく。
私が掴まったことを確認したカタリナはワイバーンを飛び立たせた。
「……え? え!? 亜衣さん、一緒に行く必要って有りました?」
沙奈良ちゃんが珍しく慌てたような声でエネアに問いかけているのが聞こえたけれど、既に地面はかなり下だ。
……あ、そっか。
カタリナだけでも良かったよね。
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