第250話
シルバードラゴン……か。
一昨日までのオレなら裸足で逃げ出すしか無かっただろう相手。
見ただけで分かる。
レッサードラゴンの中に銀の鱗を持つモノはいなかったので長所や弱点の傾向すら正確には分からないが、そんなことは関係ないぐらい生き物としての格が高いのが見て取れるのだ。
他のドラゴンとはそもそもの存在感が違うし【危機察知】の警報も作動している。
ナメて掛かって良い相手では無いだろう。
「仮称シルバードラゴン。強敵だと思う。エネア、何か知らないか?」
「白銀の竜は万年雪に覆われた高山に住まうというわ。恐らくは冷気の吐息が来る。見るからに、ただ白いだけの竜とは格が違うのは間違いないけど……ごめんなさい、私にも詳しいことは分からないわ」
「それで充分。エネアは耐性魔法と防壁を。炎の壁はオレが。兄ちゃん、亜衣、マチルダが攻撃役で」
「任せろ」
「分かった~」
「了解っ」
「! 来るわよっ!」
さすがに速い。
かなり遠くに居た筈なのに、気付いたらもう既に先ほどまでポイズンジャイアントが立っていた地点の上空にまで達している。
エネアが耐性の魔法を掛けてくれているが、防壁の魔法までは間に合いそうにない。
オレが炎の壁を生み出すのとシルバードラゴンがブレスを放つのは、ほぼ同時といったところだった。
ホワイトドラゴンの冷気のブレスより、よほど拡散性が低くスピードも段違い。
少しでもオレの魔法のタイミングが遅かったら、確実に誰かやられていたことだろう。
いくら耐性を高めても即死が瀕死に変わる程度の話なのは疑いようも無かった。
そんな凶悪なブレスにしたって、ヤツにすれば恐らくは小手調べ程度にしか過ぎなかったようだ。
兄達の反撃の魔法もアッサリと躱したシルバードラゴンは、今度は別角度から再びのブレス攻撃。
厭らしいことに、先ほどより高い位置からの攻撃だ。
防壁の魔法は、どうしても地面から生やす恰好になるため上空からの攻撃には、充分な防御能力を発揮しにくい。
仕方なく【無属性魔法】魔法で防壁を突破してきた分のブレスを迎え撃つも、そんな半端なブレスにさえ本当にギリギリのところで押し勝ったに過ぎず、ひんやりと冷たい汗がオレの背中を濡らす。
モンスターが侵入できない安全地帯内に居るからこそ、シルバードラゴンがオレ達の真上や背後に回る心配をする必要が無いというだけの話で、そうした制約が無ければ今この瞬間で戦闘は終了していたことだろう。
もちろんオレ達の敗北という形で……。
実際さっきのブレスの余波だけでも、そこいら中が凍結してしまっている。
「もう! ぜんぜん当たんない! ヒデちゃんも攻撃に回って。ブレスは私とエネアで何とかするから」
「だな、オレも防御に回るわ。火属性は得意な方だし」
「了解。そうしようか。魔力温存無しでいこう。魔力回復ポーションも完成したことだし」
「……この際、好き嫌いは言ってらんないか。狼化するね?」
「ごめんなさいね。本当は、私が火の精霊を扱えれば良いだけの話なのかもしれないけれど……」
「エネア、それは無理な話だよ。森のニンフが火の精霊を扱い始めたら怖い……って。マチルダ、それ……」
『え、なに?』
「毛の色……銀に」
『あ、ホントだね』
「来たよ!」
マチルダの変化に気を取られている間に、大きく旋回しながらタイミングを図っていたシルバードラゴンが、再び接近してきていた。
エネアが土の上位精霊を呼び出し、先ほどまでより高く分厚い防壁を張る。
兄はエネアの防壁の内側に炎の壁を生み出し、妻はお得意の銀光を半円状のドームにして結界のようなものを形成した。
マチルダは複数の矢に炎を付与し弓を構える。
どうやらオレと一緒に迎撃するつもりのようだ。
シルバードラゴンは飛来した勢いそのままに氷結ブレスを放つと、すぐに自ら翼を畳んで急降下……地面スレスレで再び翼を広げ舞い上がりながら短く何度もブレスを放って来た。
芸が細かいものだ。
マチルダの放った矢の大半は、そんな変則的な動きに翻弄される形で外れていくが、最後の方に放った矢が見事にシルバードラゴンの右の翼に突き立ち、その翼膜を焼いていく。
最初のブレスはエネアの土壁を抜けず、連発してきたものも、兄の炎壁に減衰されたり角度が悪かったりで、最後は一様に妻の結界に阻まれ消え失せた。
そして……マチルダの焼いた翼は飛翔能力を僅かに落とし、そのおかげか狙い澄ましたオレの【無属性魔法】がシルバードラゴンを捉えることに成功。
選んだ魔法は緊縛。
本来エネアの得意分野だが、オレはエネアやトリアの魔法を見ているうちに、イメージをしっかりと掴むことが出来ていた。
オレの持つ【解析者】はこうした『人の技を見て盗む』ことをサポートする能力にも優れている。
さらには【無属性魔法】は『無形の魔法』だ。
純粋な魔力が元になっているので千変万化……いかなる形状にも対応可能だ。
銃で放てば銃弾になるし、槍の穂先から放てば刺突を飛ばすことも出来る。
刀剣を振るう形で放てば斬擊に変わるし、仮に拳を突き出す恰好で放てば打撃として扱えるだろう。
今回イメージしたのは無色透明な網。
さすがにシルバードラゴンの巨体を捕らえる網をイメージするのには少し苦労したが、マチルダが翼を痛め付けてくれたおかげで間に合ってくれたようだ。
堪らず轟音とともに落下したシルバードラゴン。
あとはトドメを刺すだけかと思われたのだが、そんな油断が許される相手では無かったことを、オレ達はすぐに思い知らされることになる。
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