第247話
さっきまでとは比較にならないぐらい、劇的な変化が私達全員に同じタイミングで起きた。
マチルダが加速し、グランドドラゴンより早く沙奈良ちゃんのもとに到着。
勢いそのまま沙奈良ちゃんを正面からハグするような格好で連れ去る。
エネアの作った魔法の壁は瞬時に倍以上に高くなったし、そして固くなったみたいだった。
まだ完全にグランドドラゴンの移動を阻止するのは無理みたいだけど、踏み潰して走ることに明らかに苦戦しているように見える。
そしてエネアの魔法自体の威力も増した。
さっきまでほとんど効いていなかった同じ魔法が、グランドドラゴンの体のあちこちに大きな傷を残すようになっている。
あの固かったグランドドラゴンが、あまりの痛みで吠えているぐらいだ。
さっきまでエネアをさんざん無視していたグランドドラゴンだけど、なんだかエネアに狙いを変えたように見える。
さっきまで沙奈良ちゃんが居たあたりを通過するぐらいから、カーブしてエネアの方に向きを変えて走り出す。
マチルダは、沙奈良ちゃんを地面に降ろしたあと、ヒデちゃんのお下がりのライトインベントリーから、自分の武器(マチエットって言ったかな?)を取り出して、無属性魔力のビームで攻撃を始めた。
……効いている。
マチルダはオオカミの姿になると私よりもずっと強いんだけど、魔法は少し苦手にしていたハズなのに。
降ろされた瞬間から攻撃を始めた沙奈良ちゃんの魔法は、もっと効いているように見えるから、たぶんみんな同じタイミングで同じぐらい強くなったんだろう。
…………もう! ヒデちゃん、ホント何をしでかしたの?
私は私で、銀色になる魔法を全身に掛けて走り出していた。
さっきまでの私の走る速さと、今の私の走る速さはたぶん比べ物にもならないレベルだと思う。
エネアも、マチルダも、沙奈良ちゃんも、みんなビックリしたような顔で私の姿を見守っている。
みんなスローモーション。
驚いた表情が、よく見える。
みんな、私に魔法が当たらないように攻撃を中止してくれたみたいだった。
グランドドラゴンもスローモーション。
なんだか、スゴく遅い。
追い掛ける私には全く気付いていないみたいだった。
私はスローモーション……なのかなぁ?
銀光の加速効果を別にすれば、普段の私と同じように動けているぐらいだから、あんまり実感はないんだけど。
あっという間に追い付いた私は、さっき跳ね飛ばされた憎たらしいお団子シッポに逆襲してやることにした。
スローでフリフリと揺れるシッポは何だか可愛らしく見えないでも無いけれど、何しろサイズがとんでもない大きさだから、間近でみるとやっぱり可愛くなんてない。
おっきな丸い岩が付いたワニみたいな形のシッポ。
それを真ん中ぐらいから薙刀でバッサリやるイメージで斬り上げる。
薙刀の大きさからすると、ほんの一部しか斬れないハズだったのに、薙刀が当たる瞬間ブワっと刀身が広がって、グランドドラゴンの長くて太いシッポがキレイに両断されてしまった。
……何、今の?
突然シッポに走った痛みに驚いたグランドドラゴンが、スローなまんま振り返ろうとしているのが見えた。
いけない、私も一緒になって驚いてる場合じゃない。
いったん左へサイドステップ……そして再びダッシュ。
足の裏がこちらに向いている後ろ足を目掛けて上段から薙刀を振り降ろす。
すると、またさっきの現象が起きて刀身が巨大化し、かかと(?)からつま先まで大きく斬り裂いた。
急に振り向いたこと。
それから後ろ足を真っ二つに斬り裂かれたことで、完全にバランスを崩したグランドドラゴンは盛大に転倒する。
グランドドラゴンの進行方向に居たエネアが、いつの間にか呼び出していたらしい風の大精霊と一緒になって、そこに待ち構えていた。
次の瞬間、いきなり吹き荒れた風は何本もの竜巻になってグランドドラゴンを襲う。
倒れたままのグランドドラゴンは、なすすべもなく竜巻に切り裂かれていく。
私も、マチルダも、沙奈良ちゃんも、それをただ見てるだけじゃなくて、自分なりに一生懸命に魔法で一斉攻撃したけど……たぶんトドメになったのはエネアの竜巻だったと思う。
精霊自体を呼び出してからエネアが使う魔法の威力は、ちょっと真似出来ないレベルに達している。
普通に使う精霊魔法とは威力が段違いなんだけど、それだけの時間も掛かるからエネアもトリアも、普段はあまり使わない。
しかも、今回は大精霊。
さすがのグランドドラゴンの変異種も、アレには耐えられなかっただろう。
死んだモンスターを包む白い光。
いつも見ている白い光だけど、いつも見ているそれよりずっとずっと大きかった。
これほど大きな光の渦は、ヒデちゃんとトムちゃんと一緒に倒した大きなムカデ以来だろう。
エネアの起こした竜巻が消えた後も、光の渦はしばらく消えなかった。
ようやく光が消えた後、私達はグランドドラゴンのドロップアイテムを、みんなで地面に這うようにして探すことになってしまう。
範囲が広すぎて、どこに落ちてるか全然わからなかったから仕方ないんだけど……。
瓦礫の陰に、小さな宝箱が落ちていた。
さっそく宝箱を開けようとしたマチルダを、沙奈良ちゃんが必死に止めている。
私の【危機察知】もうるさいぐらいにブザーを鳴らしているから、これは開けずに持ち帰ることにした。
ヒデちゃんかトムちゃんに、罠を外してもらった方が良さそうだよね。
あ、そうだ。
ヒデちゃん、何をしでかしたんだろう?
「……ねぇ、ヒデちゃん今度は何したのかな?」
「…………魔王でも倒したんでしょうか?」
「当代の魔族の王は、良い王だって言うわよ? 孤児救済を諸国に働きかけているっていうし……」
「へぇ、そうなんだ? うちの村は田舎だったからなぁ。そういうの全然知らないや」
「私の住んでいた森も大概だけれどね。たまに薬師の一族が薬草を求めて訪れてくれていたから……」
「あぁ、それでか。旅の一族。色んなこと知ってるよね」
「ちょっと、エネアさんもマチルダさんも、脱線し過ぎです。ヒデさんが何をやらかしたかの話だった筈ですよ!」
「サナラ、やらかしたってのも中々だと思うよ? でもまぁ……想像もつかない、としか言えないかなぁ」
「そうね……推測のしようも無いわ。アイに心当たりが無いなら、私達にも分からないとしか……」
「……そうだよね。無事なのだけは分かるから良いんだけど」
「魔王じゃないなら……神様とかですかね?」
「……絶対に無い! とは言い切れないところが恐ろしいわよね」
「そうだね……」
「……うん」
「はい……」
結局、今日やるハズだったことを終わらせて、帰った後にヒデちゃんに直接聞いてみるしか無さそう。
でも、お礼は言わなくちゃだよね。
少なくとも、ヒデちゃんのおかげで私達が全員無事だったのは、間違いないんだし……。
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