第233話

 グリフォンが5体目のイレギュラーなのは明らかだった。


 インプやレッサーデーモン、ハーピーなど、他の飛行するモンスターとの連携を取るつもりは、当のグリフォンには全く無いらしい。

 1体だけグングンと大きくなってくるように見えるほど、他のモンスターとは隔絶した速さで迫り来るグリフォンの姿こそが、その最たる証拠だろう。


「右京君、今居るハーピーを倒し終わったら地上の残敵掃討! エネア、トム、悪いがペース上げてくれ!」


「はい!」

「任せて」

『了解ですニャ!』


 短く三者三様の応答。

 全員でグリフォンを迎え撃つため、オレもハーピーを撃墜し手近なトロルの眉間に槍を突き立てる。

 4人掛かりで邪魔なモンスターを排除し終わったのと、グリフォンがオレ達の直上まで到達するのとは、ほぼ同時といったところだった。


 遠くに見える敵影は暫く放置。

 今はとにかくグリフォンに集中だ。


 右京君は既に猟銃タイプの無属性砲を連発しているが、驚いたことに全く当たっていない。

 右京君の強みは群を抜いた射撃の腕前。

 弓にしろ無属性砲にしろ、その狙いの正確さは他の追随を許さないほどだ。

 そんな右京君の腕前をもってしても当たらないのは、単純にグリフォンの飛行速度だけが理由というわけでも無いのだろう。

 それが証拠にエネアやトムの魔法も当たる筈の軌道でグリフォンに向かっていたのに、直前で不自然な外れ方をしている。

 オレの無属性魔力波も同じことだ。

 当たる筈なのに当たらない。


「ただのグリフォンじゃないわね。風を鎧のように幾重にも纏っていることから考えても、かなり位階が高い個体と見るべきかしら」


『ウニャ! 我輩はグリフォンを見るのは初ですニャー。でも明らかに強そうだったのですニャ』


 グリフォンは嘲笑うかのようにオレ達の上空を旋回していたが、格の違いはもう見せ付けたと言わんばかりに、やけにゆったりと自らの高度を下げて来た。

 右京君がここぞとばかりに魔力の消費を厭わずに乱射を開始したが、それでもやはり当たらない。


「右京君、ちょっと落ち着こうか。右京君は後から飛来するモンスターを撃ち落としていってくれ。トム、右京君の援護を頼むよ」


「ッ! ……はい、了解しました」

『お任せ下さいませニャ』


 そのまま降下を続けるかと思われたグリフォンだったが、エネアが拘束を目的とした精霊魔法を放つや否や、泡を食ったかのようにまた高く舞い上がっていった。

 これに捕らわれたらかなわないと言わんばかりの豹変ぶりだ。


 地上からも空からも、先ほどグリフォンに完全に置いて来られていた新手のモンスターが到来しつつあるが、今のところは鬱憤を晴らすかのように無属性砲をモンスターの急所に次々と当てていく右京君に任せておけるだろう。

 右京君の援護を頼んだトムさえ、今はすっかり暇そうにしているぐらいだ。

 オレはこの隙に、詳しく事情を知っていそうなエネアに疑問を尋ねることにした。


「エネア、あれはどういう原理なんだ?」


「高位の魔物は魔石自体に属性を宿すことが有るの。魔石に宿った属性や、位階にもよるのだけれど、大抵はああして鎧のように風や砂礫されきを身に纏ったり、爪や牙に炎や氷を宿したり……ただ、「あんなに効果の強いものは私も初めて見るわね」


 ……エネアは見た目通りの年齢ではない。

 そのエネアですら見たことが無いなると相当だろう。


「どうすれば破れるかな? さっきの魔法で拘束しても、結局アレを破らないと倒せる相手じゃないだろ?」


「どうにか接近戦に持ち込めば、いつかは破れる筈よ。魔石に蓄えられた魔力だって無限な筈は無いのだし。ただ、あれほど高位の魔物となると、それがどれだけの難事かは私にも分からないわ」


『簡単では無いですけどニャ……主様なら、あるいはでいける筈なのですニャー』


 あ、そうか。


「トム、それだ! 問題はどうやって、そこまで持ち込むかだけどな」


『……あんまりオススメの方法でも無いのですが、こんなのはどうですかニャ? まず…………』


 ◆


 トムの立てた作戦に従って戦うこと、およそ2時間。


 地上からも空からも、モンスターのやってくる頻度はあまり変わらなかったが、ようやく底が尽き始めたようだ。


 グリフォンはあれからエネアを警戒してか、こちらを上空から監視し、時折もの凄い速度で急降下しては一撃離脱を繰り返している。

 グリフォンの放つ魔法は主に風魔法。

 魔法以外にもライオンのような爪や、ワシのようなクチバシも脅威だ。

 しかし最も厄介なのはグリフォンの羽根。

 フェザーショットとでもいうのだろうか、低空をホバリング飛行しながら、猛吹雪のように下手な刃物より切れ味の鋭い羽根を飛ばして来る。

 避け損ねた右京君が重傷を負って、危うく旅立ってしまうところだった。

 温泉街のダンジョンで得た上位のポーションと、エネアの治癒魔法。

 それからオレが【調剤】した中位の造血ポーション。

 その、どれかが欠けていたら今頃は右京君の心臓は止まってしまっていたかもしれない。

 上半身がズタズタに切り裂かれ、左腕などは付け根からげかけていたのだから……。

 

 ウッドゴーレムやストーンゴーレム、オーガにワーアント、グールだったりレッサーバンパイアだったり……地上戦の主力になっているモンスターは次々に代わるが、どのモンスターも数が非常に多い。

 空からはハーピーやレッサーデーモン、インプを除くと、いわゆる鳥がベースになったモンスターが多く襲来した。

 こうした飛行タイプのモンスターはグリフォンの攻撃の巻き添えになることも多かったが、そんなことにはお構い無しに、愚直にオレ達に向かって来るのだ。


 モンスター達が連携らしい連携をしてこないのは、拠点にしているダンジョンが違うからだろうか?

 おかげでトムの立てた作戦は非常に上手くいっている。


 あくまでも今のところは……だが。

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