第214話
「え……何コレ? ヒデちゃん、私にもスキルの人の声が聞こえるよ。これ、私にしか聞こえてないってことなの? え、選択って何? え? それは……ヒデちゃんかな。はい、そうです。それで構いません」
まさかとは思っていたが、どうやらそのまさかの様だ。
亜衣には【挑戦者】とやらの声が聞こえているのだろう。
それはつまり……亜衣の得たスキルが、オレの【解析者】と同じようなスキルであることを示している。
【解析者】との意志疎通というものはあまり経験したことが無いが、何かを決める必要が有る時にはオレの思念を読み取って実行してくれていた。
最近では【眷属強化】というスキルと【指揮】というスキルを統合して、新たに【ロード】というスキルを創り出してくれた際に経験した覚えがある。
「亜衣? 大丈夫か?」
「うん、スキルの人とのお話は終わったよ。それにしてもビックリ。あんな風に聞こえてくるんだね~」
「それで? どんなスキルなの?」
マチルダが問うが、カタリナも興味津々といった様子だ。
「えーとね……何だかイマイチ理解しきれて無いんだけど、目標にしている人、追いかけたい人は誰ですかって聞かれたから、ヒデちゃんですって答えたの。そしたら、最適化を実行します……って言われたきり聞こえなくなっちゃったんだよね。最適化って、この場合どういう意味なんだろう?」
うーん、相変わらずというか何というか……亜衣は
習うより慣れよを地でいくタイプだ。
本人は理解して喋っているつもりでも、周りからすると要領を得ていない様に聞こえてしまうことが多い。
あまり説明が得意な方では無いのだ。
目標がオレ。
最適化……どういう意味だ?
【挑戦者】という言葉の響きからすれば、追いかけたい人を問われるというのは有りそうな話では有るが、それと最適化という言葉とがどう繋がるのかが分からない。
まぁ、徐々にスキルの性質は明らかになっていくだろうから、今は保留すべきかもな。
亜衣の説明下手に慣れているオレでさえコレなのだから、マチルダとカタリナが呆然としてしまっているのは仕方ないことだろう。
そして亜衣が説明しても理解されずに膨れっ面になっているのも、オレには見慣れた光景だ。
「まだ習得したばかりだからな。使ってるうちに、だんだん亜衣も分かって来るだろうし、また今度スキルの特徴を教えてくれ」
「うん、分かった~。じゃあ、そろそろ攻撃予定のダンジョン行こっか?」
「そ、そうだね。何だか暴れたい気分だし……」
「珍しく意見が合うわね。私も派手な魔法を使いたい気分よ」
◆
オレ達が【遠隔視】と【転移魔法】のコンボでやって来たのは、先ほどまで居た観音像のダンジョンが、まだ見えるほど近いエリアだった。
観音像の周辺には大型ショッピングモールや、各種の飲食店、各種小売り店舗が建ち並んでいたが、ここはどちらかというと閑静な住宅街……だったところだ。
今は周囲にウジャウジャとモンスターが居るし、そいつらがオレ達を見付けて大騒ぎしているせいで静けさとは無縁の状況になってしまっている。
パッと見で数が多いのは、やはり元住民の成れの果て……つまりはアンデッドモンスターなのだが、負けず劣らずに数が多いのは猿がモンスター化したような連中だ。
便宜上、サイズで分類してイビルモンキーや、イビルエイプと呼んでいるが、要はチンパンジーだったり、ゴリラだったり、オランウータンのような各種の猿のモンスターのことを、一緒くたにそう呼んでいるに過ぎない。
中には魔法を使って来るヤツらも混ざっていて、普通の探索者ならかなり手を焼くことだろう。
猿以外にも動きの素早い獣系モンスターが多く存在しているのだからなおさらだ。
とは言うものの、オレ達は既に普通とは言いにくいレベルに達しているし、先ほどの一件でマチルダとカタリナが妙に張り切っているので、オレの出番があまり無い。
……しかし、それ以上に異彩を放っているのが妻の戦いぶりだ。
いつもより大規模な魔法を次々と行使しているカタリナや、ピョンピョンと跳ね回りながら戦っているマチルダと比べると、さほど派手さは無いのだが、それでいて殲滅速度には差が殆ど無い。
淡々と薙刀を振るい、冷静に魔法を放ち、次々と敵を葬っていく。
それだけでも本来の妻の戦い方とは違うのだが、マチルダ達と比べても明らかに妻が最も討ち漏らしが少ないのだ。
しかもオレが見ている短時間で、どんどんと妻の魔法が強く速く、そして正確になっていく。
一皮剥けたとか、そんなレベルでは無い。
全く無駄の無い動きで薙刀を操る姿は、美しささえ感じさせる。
「ヒデちゃん、足元! たぶん何か来るよ!」
妻に声を掛けられてハッと我に返ると、確かに地中に居る何者かに【危機察知】が反応していた。
微弱ながら敵の気配を感じるのだ。
そして……足元の地面が盛り上がり、顔を覗かせたのは毛だらけのナニか。
反射的に槍で刺し貫いてしまってから気付いたのだが、それは巨大なモグラだった。
オレが実際に目にするのは初めてだったが、イビルモールというモンスターで間違いないだろう。
……それにしても、どうして気付いた?
亜衣が【危機察知】を取得したのは、オレや父よりずっと遅く、兄よりも後だった筈だ。
急速にスキルレベルや熟練度が上がっているとでも言うのだろうか?
あるいは、それが正解なのかもしれない。
【解析者】のアシストを受けて、どんどんと実力を伸ばして来たオレよりも更に早く……目標に設定したオレを目掛けて一気呵成に成長していくスキル?
もしそうだとしたなら……オレが突っ立っていて良い筈が無い。
より早く、高く、どこまでも成長して、妻の目標で在り続けなくてはならないだろう。
◆
結局、オレまでが競うようにモンスターを狩り続けたせいで、ダンジョン周辺のモンスターの掃討戦は、予定していた時間の半分以上を残して終了することになってしまった。
そのせいで暴れ足りなかった様子のマチルダとカタリナから、じと~っとした眼で見られてしまうもになったが、それはもう仕方ない。
夫の威厳……などと言うつもりも無いが、それでも妻には負けたくないのだ。
結局のところ、好きな女性の前ではいつまで経っても良い格好を見せ続けていたいのが、男の本音なのだから……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます