第134話
今日は朝からダンジョンに来ている。
長時間に及んでも良いように、弁当持参だ。
ダンジョンに入ってすぐに【転移】し、第6層のボス部屋へ。
階層ボスとしてのワーウルフは再出現しておらず、奥の扉からマチルダが現れた。
「おはよう、マチルダ」
「おはよ。今日は早いのね」
第7層に向かう前にマチルダからダンジョンの状況を聞くが、いまだに第8層は開通していないらしい。
そのあたりのシステムがどうなっているかは、守護者ということになっているマチルダにも分からないらしいから、出来る時を待つしかないのだろう。
取り敢えず今日は第7層の探索に集中する。
可能なら構わず踏破してしまいたいところだ。
マチルダに案内され、次の階層へと進む。
途中、先へ進むルート以外にも扉が見えたが、そちらはマチルダの自室らしい。
『休憩していく?』などとイタズラっぽく誘われたが、これに乗るのは危険だと直感で悟る。
……妻に薙刀で真っ二つにされる覚悟が必要だろう。
初めて足を踏み入れた第7層は、天井が見えないほど高かった。
より正確に言うならば、雲一つ無い空にしか見えない。
ダンジョン内だというのに屋外に居るようだ。
こうしたフィールドのあるダンジョンはそれなりにあるらしいが、少なくともオレには初めての経験だった。
枯れた大地に、乾いた風が時折吹き付ける。
樹木は無くもないが枝に葉が茂っているものは少ないし、草花は目の届く範囲には存在していない。
荒野とまでは言わないが、あまり住みやすい様にも見えないなぁ。
そのせいかどうかは知らないが、モンスターの影も見当たらない。
やたらと目に付くのは、そこら中にゴロゴロと転がる大小の岩……岩?
…………あれ、ロックイミテーターだったりするのかな?
以前の第6層で遭遇した大岩とは違いそこまで大きな岩は無いのだが、逆に言えばロックイミテーターの本来のサイズは、これぐらいだと知られている。
判別が難しいし、それこそ無数に転がっている岩をいちいち確認するわけにもいかず、ひとまず無視して歩いていくことにする。
案の定、本物と偽物(ロックイミテーター)が混在していたのだが、今さら問題にするようなモンスターでも無かったため、さほど苦もなく進んでいく。
岩石地帯を抜けると僅かに下草が生えているエリアに到達する。
多少まばらではあるが、樹木にも緑の葉が目立つようになってきた。
遮る物も無く降り注ぐ仮初めの陽光が眩しい。
あちらこちらニワトリを一回り大きくしたようなモンスターが見えるが……群れる習性が無いのか気ままに点在しているのが、まだ救いだろうか。
黄色い羽毛と鱗に包まれた胴体……クネクネと自在に動く長い尾は蛇の動きそのもの。
羽根はコウモリやドラゴンのそれに似ている。
そして頭には立派なトサカ……コッカトライスとかコカトリスと呼ばれているモンスターだ。
オレの知る限りでは、クチバシや足の爪には石化の魔力を持つうえ、猛毒のブレスを吐き体液も同じように猛毒を持つモンスターで、雌雄関係にあるとされるバジリスクとは異なり視線には石化の魔力は無い。
バジリスクは、ミスリルさえも腐食させるブレスに加えて、石化の魔眼、猛毒の爪と牙と体液を持つというから、まだコッカトライスの方で良かったのだろう。
いずれにしても、たかだか第7層あたりで遭遇するようなモンスターでは無いのは間違いない。
難易度が高いにも程があるだろう……。
不用意に近付いて良いタイプのモンスターでも無いが、幸いオレには各種の魔法も【投擲】も有れば【気配隠蔽】も有る。
ここはどうしても邪魔なヤツだけ排除して、慎重に進むことにしよう。
幸い、あまり索敵能力の高いモンスターでも無かったようで、実際に相手をする必要が有ったコッカトライスは2体だけだった。
鉄球が頭に命中しても倒せなかったし、さらには風魔法にも強くウィンドライトエッジさえも耐えて、こちらに猛烈な勢いで向かって来たので大いに肝を冷やしたが、火魔法にはそこまで強く無かったのが幸いした。
一応は石化耐性を高めるアクセサリーも装備しているし【状態異常耐性】のスキルも有るが、それでも絶対に石化しないというわけでは無いのだ。
なるべくなら、命を賭けたギャンブルは避けた方が良いのは間違いない。
コッカトライスの縄張りを抜けると、さらに草木が生い茂り緑の目立つエリアに続いていた。
しかし広い階層だ。
明らかに今までの階よりも広いし、実際の敷地以上の面積が有る。
理外の象徴たるダンジョンとは言え、感覚がおかしくなりそうだ。
出現するモンスターは多岐に渡り、立派な武器防具を装備したオーガや、魔法を使うオーガメイジだったり、イビルファルコン(魔物化したハヤブサ)の上位種ブラッディファルコン(血まみれハヤブサ)、樹木の化け物トレント、ワードッグ(人狼の下位種……人犬?)、草原の巨大ワニ……グラスクロコダイル、更にはレッサーデーモンさえ稀に現れる始末だ。
まだ目撃していないモンスターも居るのかもしれないが、今日はとにかく前進することを優先しているので、それも仕方ない。
そろそろ普段なら昼食を摂っている時間だが、戦闘を最小限にしているのにコレだから、今までと同じ程度の探索時間では、何とも中途半端な探索結果になっていたことだろう。
どうにか草原と林のエリアを切り抜けると、目の前に広がったのは広大な湖。
中央付近に小島が有り、そこに古代ギリシャの神殿のような石造りの建物が見えるのだが、パッと見、そこに至る道筋が見えない。
まさか……これ、泳ぐ必要が有るのだろうか?
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