第131話
「お久しぶり……でも無いか。来てくれてありがとう」
「あぁ。何でここに……?」
「何で呼んだのか? それとも何で居るのか? フフッ……両方かな?」
「そうだな。両方だ」
「うーん、生き返れたのは貴方達の言葉で言うなら、リポップとかっていうヤツが理由らしいよ? ……呼んだのは、当然だけど貴方に逢いたかったから」
そう言うなり熱っぽい眼でオレの顔を見つめる……が、口角が片方わずかに上がってしまっている。
どうやらオレは、彼女にからかわれているようだ。
「リベンジなら受けて立つぞ?」
「復讐? するわけないじゃない。もう絶対に勝てないもの」
「なら何で?」
「うーん……何でだろ? やっぱり貴方を気に入ったから、なのかなぁ?」
あの時から思っていたことだが、彼女がオレの何を気に入ったのかが全く分からない。
いや、あの時は単に好敵手としてだと思い込んでいたし、事実そうした部分はお互いに有ったとは思う。
しかし、それがここまで執着される理由になるとまでも思えなかった。
どうやら再戦を希望しているわけでも無いようだし、本人もあまり自分自身の情動を言語化するのが得意では無いようで、具体的な答えは聞けそうにない。
「どうやって呼んだんだ? あの宝玉に何か仕掛けが?」
「うん、アレはそういうマジックアイテムみたい。パレードが終わった時、ダンジョンが一時的に閉まったでしょ? ダンジョン再開を知らせる機能が付いてるのよ。そして……守護者の位置を持ち主に教えるの。」
「……? 教えてどうする?」
「呼ぶ強さは守護者の意志次第。同じ状況なら再戦を望む守護者は多いのよね。勝てっこないのは貴方が特殊だからだし。……守護者を殺せばダンジョンを崩せるよ? 跡形も無く」
!?
……思わず絶句してしまう。
そんなことが出来るとは今まで聞いたことすら無い。
待てよ?
じゃあ目の前に居る彼女を、オレはもう一度……この手に掛けなければならない、のか?
「何よ、その顔? 嬉しくないの?」
「何だよ、その顔? ……殺されたいのか?」
「まさか! 痛かったもの……二度とご免よ」
「じゃあ何で……?」
「呼んだのか? ……言ったよね、逢いたかったの」
「また、そこに戻るのか。逢って何がしたかったんだ?」
「……子作り、かな。でもね、その……出来ないらしいのよね、まだ。開放されてないのよ」
「開放? 何が?」
「……バカ。そういう機能が与えられてないの、まだ。私達と貴方達の間に子供は出来ないのよ、まだ」
……まだ?
逆に言えば、いずれは……?
あ!
じゃあ、もしかして……?
「攫われた人が居るのか?」
「お、気付いちゃう? さすが」
「まさか、それを教えるのために危険を冒して?」
「そういうことになるのかな。お人好しよね……人じゃないのにさ」
「そんなことは関係ない!」
……思ったよりも大きな声が出てしまった。
この前から変だ。
オレは何故、彼女には他のモンスターに対してのように毅然と出来ないのだろうか?
「そういうところよ。私が貴方を気に入ったの。……ありがとう、こんな
「獣憑き?」
「あ、しまった。今のナシ」
「もう聞いた。無しには出来ない」
「油断しちゃったなぁ。……ま、いっか。…………私は本来ならただの人間。貴方達と暮らしていた世界は違うけど、エルフでもドワーフでも獣人でも無く、か弱い人間」
「世界? まさか異世界から来たとでも言うつもりか?」
「私からしたら、こっちが異世界だけどね。たまに生まれるのよ、私みたいなのが。大抵は大人になる前に殺されちゃうんだけどね。でも……」
◆
いつもの陽気さが鳴りを潜めた口調で語られる彼女の事情……どれも、にわかには信じ難い話だった。
彼女達の世界はモンスター、エルフ、ドワーフ、獣人……それこそ何でも有りの世界らしい。
彼女の暮らしていた村は、あちらではありふれた山間の寒村。
農業に向かず、狩猟や採集で生計を立てる人の方が多いのだという。
村の成り立ち以来ずっと、獣を狩っていた弊害か、ごくたまに彼女のように獣の力を宿して生まれる人が居るのだという。
大体は自我を保てず、幼い頃に暴れては殺されるのが常だというが、彼女は違っていた。
自在に獣の力を操り、人々の先頭に立って狩りに勤しみ、村の自衛に貢献してきたという。
そんな彼女が、何でここに居るのか?
村に山賊の一団が、気まぐれで襲撃を仕掛けて来たのがきっかけらしい。
彼女を中心に村の防衛には成功したが、一部の山賊は逃がしてしまった。
それがいけなかったのだという。
あろうことか領主に山賊が彼女の正体を密告し、領兵や冒険者を中心に討伐隊が組まれた。
故郷に迷惑を掛けたくなかった彼女は自ら出頭し、確かに首を跳ねられ死んだ筈なのだ……という。
それが気付いたらここに居て、ダンジョンの守護者として選別を手伝うよう義務づけられた存在として、何故かそれを疑問にも思わなかったらしい。
……もう一度、殺されるまでは。
そして何はともあれ自我を取り戻した彼女は、あるモンスターによって、マンションから住人が攫われたことを、ダンジョン守護者の権能によって知り得た。
今はまだ生殖能力を開放されていないが、いずれモンスターにもそうした能力が備わるのは間違い無いだろうと判断した彼女は、『呑崚の宝玉』の隠された機能を用いてオレに強く呼びかけた。
何故そうしたかまでは、本当に分からなそうにしていたが、ここまで話を聞いてしまえば嫌でも分かる。
……彼女は本質的には善良だ。
確かにマンションに住んでいた女性達は、彼女からすれば見知らぬ人々だろうが、モンスターの生殖に利用されそうになっているのを見過ごせない程度には、既に彼女は自我を取り戻しているのだろう。
『用は済んだから殺して。痛いのは死ぬ気で我慢するから……』
なんて言われて、本当に殺せるヤツが居るのだろうか?
少なくとも……オレには出来そうに無かった。
目を瞑り震えている彼女に、軽くデコピンをしてやる。
いきなりの乱暴に驚いて目を開けて、涙目で恥ずかしそうに笑う彼女は、既にただの年相応の女の子にしか見えなくなっていた。
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