第64話
「過ぎたことは全てやむ無し……だな。あんまり落ち込むなよ」
兄の慰めが心に沁みる。
リビングアーマーとの突発的な戦闘を終えたオレは、交通の妨げになっていたことを降りてきたドライバーさん達に詫びると、そそくさとその場を後にし、駆け込むように実家の玄関をくぐった。
そして、
「あぁ、じゃあ明日の朝はヒデちゃんと私達の順番、入れ替えてさ……柏木さんに色々、見て貰っちゃえば?」
「有難いけど、それだと早朝から行く意味は無いなぁ……」
妻からの提案は確かに有難い。
有難いが、家族全体の強化効率を考えると、素直に頷けない。
「ヒデ。お前な、単に留守番するだけでも、モンスター出たら戦う必要が有るんだぞ?」
「そうだな。予備の槍で強敵と戦えるのか?」
う……兄と父の言うことは
確かにゴブリンやオークぐらいまでならともかく、オーガやリビングアーマーなどの相手をするのは、かなり厳しいと言わざるを得ないだろう。
ワンアタックキルなど、よほどの実力差に加えて、相性的な有利をも求められる芸当だ。
そればかりを当てにして戦うなど、とても現実的な話ではない。
「そうだね……じゃあ甘えさせて貰うよ。思った以上に鎗のダメージが深刻なら、買い換えるなりしないと探索自体、無理だろうし」
「そうね。そうしましょ、私達は時間帯が変わっても、やることがハッキリしてる分、そんなに影響ないもの。午前中に下ごしらえして、久しぶりに凝った料理でも作るね~」
妻の気遣いが嬉しい。
こうして、オレの今夜の探索の報告と、明日の行動指針は決まった。
次は戦利品の分配なのだが、その前に……
「あ、そうだ。留守中、厄介なモンスターが近所に出たりしなかった?」
「あぁ、それな。ハクビシンのゾンビが出たぞ。やっぱ、居るんだな。この辺りにも。車に轢かれたのか、クマにでもやられたのか、片足が無くて、頭も半分になっちまっててな……お向かいの二階堂さんが気味悪がりながらも、しっかり仕留めてたぞ」
相当、キツい見た目になっていただろうに……二階堂さん、さすがだ。
それにしても、その辺りの野生(固有種、特定外来生物を問わない)動物まで、ゾンビとしてモンスター化するは、最寄りのダンジョンには出現しないタイプのモンスター(リビングアーマーなど)すら出てくるは、どんどん生存難易度が上がっていくのを感じる。
このままでは嫌でもそのうち、近隣での犠牲者が出かねないだろう。
身近な人に加えて、それらの顔見知りまで守りきることは不可能だとは思う。
でも、だからといって、怠けて良い理由にはならない。
自然と、その後に行われた分配会議にも熱が入ろうというものだが、短時間に終わった探索で得られた戦利品は質はともかく、量は不十分なので、ともすれば空回りしそうになる情熱を抑える方が大変だったという、少し残念な結果になってしまう。
まず、苦労して倒した
【薙刀術】はレアスキル寄りの扱いだったため、こんなに早く得られることになるとは、誰も思わなかったのだ。
そのため、【長柄武器の心得】は、そう遠くないうちに【杖術】ないし【槍術】の取得が見込める父より、なかなか得物に合ったスキルを得られないだろう妻を優先して、分配された経緯がある。
先に習得して貰った【長柄武器の心得】と重複する形にはなるが、妻に【薙刀術】を覚えて貰うことには、幸い誰からも異論は出なかった。
その他のアイテムだが、ギガントビートルからは甲殻の護符(防具強化符)を入手。
それぞれ1つずつなので、幸運向上剤をオレが。
腕力向上剤は兄、持久力向上剤を父、ポテンシャルオーブについては妻が使うことになった。
甲殻の護符は、試してみたところ、胴鎧以外の防具にも効果を発揮するようなので、これからも集めていきたいアイテムだ。
ギガントビートルの甲殻は、地味に見えるかもしれないが、ヘルスコーピオンや、デスサイズの防御力を軽く上回るので、有用であることに間違いは無いのだから。
あ、ちなみに兄が持ち帰った残忍熊の護符(温泉地ダンジョンのクルーエルベアの毛皮と同等の防御力付加符)とも併用が可能だ。
つまり元々の防具が持つ防御性能に、残忍熊の毛皮、ギガントビートルの甲殻の防御力を全て合算する事が可能だということになる。
残念ながら全く同じアイテム同士は重複させることが出来ないので、ギガントビートルの甲殻100枚分の防御力を誇るジャージ……とかを作るのは、不可能なようだった。
まぁ……そんなに沢山の護符を貼ったジャージに、元々の着心地などは求められないだろうが……。
他には、お菓子系の成長促進アイテムが少しずつと、スクロール(魔)が5つ。
スクロール(魔)は兄が3つ使用し、残りは父と妻に使って貰うことにした。
オレは散々、ネタスクロールとして使わされてきたので、もうしばらくお預け。
分配会議も終わり、オレは【鑑定】の熟練度を上げるべく、ダンジョンアイテムや、おチビ達の絵本やオモチャなどを鑑定してから寝ることにした。
すると…………
『スキル【解析者】のレベルが上がりました』
思ってもみなかったスキルのレベルが上がって、驚くことになってしまったのだった。
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