第34話

 ヘルスコーピオン率いるサソリの群れとの激しい戦いの後、そこそこに充分な休憩を挟んだオレは、第3層に足を踏み入れていた。


 ここでも、長く間引きされることの無かったモンスターの大群が、いまだ激闘の疲れが残るオレを、お構い無しに攻め立てて来る。

 出現するモンスターは、今までに多かった虫型よりむしろ、いくらか上等な装備を身に付けたゴブリンやコボルトなどが、その大半を占めるようになった。

 もちろん引き続き、クリーピング・クラッドやポイズンモールド、ジャイアントビー、ジャイアントスコーピオンなど、第2層でオレを苦しめたモンスター達も現れる。

 オークの装備が相変わらず貧弱なのは、まだ救いと言えるだろう。

 ここのゴブリンやコボルト達の中には、タチの悪いことに弓を使うものまでいる。

 それ以外にも、今までは棍棒だった得物が、錆びの浮いたような粗悪品ではあるが短剣になっていたり、中には皮製と思われる盾や鎧を装備していたりと、明らかに厄介さが増しているのだ。

 さらには同じ種族のモンスターが複数出現した場合には、つたないながら連携してくるのだから、なおさら始末が悪い。

 幸いと言えるかどうか……ゴブリンとコボルトの間には、意思の疎通がないようで、これらが連携してくることは、今のところ無かった。


 たっぷり3時間近くモンスターの間引きをしながら、じっくり探索していたオレだったが、帰ろうと思った矢先、進行方向の通路の真ん中に宝箱を見付けた。

 もっと深い階層ならば、しょっちゅうとまでは言わないが、たまには見掛ける光景で、オレも大学時代に友人達と組んでいたパーティでは、何度かその恩恵に預かったものだ。

 ミミックという、宝箱に擬態するモンスターの可能性も頭によぎるが、それこそかなり深層に行かなくては、お目に掛からないハズのモンスターだった。


 そうは言うものの、少しだけ警戒しながら宝箱を開けたオレは、取り越し苦労だったことに安堵する。

 中には、ある意味では見慣れたマジックアイテムが入っていた。

 実際に目にするのは、これが初めてだが、テレビなどには、しょっちゅう出てくるアイテムなのだ。


 主婦の憧れ……魔力式の製パン機。


 余ったご飯、麺類、果てはジャガイモ、里芋、さつま芋、およそ糖質を含む食べ物なら、何でも名店顔負けの味を誇るパンに出来てしまう。

 もちろん普通に小麦粉を入れても良いし、品質の良い材料を入れれば、パンの品質も天井知らずで向上する。

 しかも電気代0円(パチンコ玉大の魔石で1年以上の連続使用にも耐える)。

 お手入れ要らず(そもそも汚れないという謎仕様)。

 さらにさらにさらにっ!

 各種菓子パンや、クロワッサン、フランスパン、果てはナン……どんなパンでも、たとえ材料が足らなくとも作れてしまう、まさにデタラメな魔法の品。


 ……でも高い。

 …………恐ろしく高い。

 かなり良い車が、新車で買えちゃうぐらいのお値段だ。


 言ってしまえばパンを作るだけの機械なのに、その稀少価値から、売りに出された際の値段をどんどん上げていった。

 ウチの妻も、普段は完全なご飯派閥のハズが、テレビの画面に映るたびに、欲しそうな顔をする。

 こうしたマジックアイテムは、様々な種類が出回っていて、その稀少価値に応じて値段が付けられ、またはオークションにて売り買いがされてきた。

 今後、そうした取引きがどうなるかは分からないが、買う人の価値観によっては、更に稀少価値が上がっている分、高騰していくのかもしれない。


 オレはこうして手に入れた思わぬ土産を、ライトインベントリーに収納し、立ち塞がるモンスターを排除しながら、帰り道を急いだ。

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