第6話
「……気を付けろよ、ヒデ。……しかし、やっぱりモンスターがダンジョンの外に出やがるか。どうなってんだ、ホントに」
何とも言えない表情で、兄が吐き捨てる。
そう言えば……
「さっき兄ちゃんが来る前にさ……コンビニ行こうと思って、玄関から出た瞬間にゴブリンが居てね。まぁ、スゲェ驚いて一瞬こう……フリーズしちゃったんだけど、何とかゴブリンが逃げ出す前に仕留められた」
「はぁ!? お前、何でソレを最初に言わないんだよ?」
「いや、だって……」
「ちょっと! お義兄ちゃんも、ヒデちゃんも、私達の頭越しに騒がないでよ。ホラ、もう着くしさ。どっちみち、この後お義父さん達にも説明しなきゃなんだから、後にしたら?」
実際、既に実家は目前だ。
神社の鳥居の前を腰を屈めて目を伏せ静かに通り過ぎ、実家の玄関の戸を開けてやり、先に妻と息子を中に入れて、兄も先に上がって貰う。
最後に周辺の警戒として、ぐる~っと辺りを見回す。
よし、目につく異変は無いようだ。
「ただいま~っ」
実家なんてものは、近くに住んでいると案外そんなに立ち寄らないもんで(むしろ向こうが頻繁に来る……)、久しぶりに実家の敷居を跨いだ気がする。
茶の間に入るには格好も人数も適さないからだろうか。
兄はオレ達を、神棚や床の間のある大部屋に招き入れる。
難しい顔をした父は、孫に一瞬、デレッと仕掛けたが、無理やりに表情を作り直し、まずは一言。
「おかえり」
「ただいま。色々、状況が分かって落ち着くまでかな? とにかく世話になるね」
「お世話になります」
「じぃ~っ」
息子のキラーフレーズに、またも表情が崩れ掛けたが、何とか威厳を保ちつつ、父は状況の共有を提案してきた。
もちろんオレ達にも否やは無い。
すぐに母や義姉、甥っ子2人も集まって来たので、まずは先にこちらの状況を話す。
時系列順に、お互いの状況を列挙していくと、大体こんな感じ。
オレがゴブリンに遭遇。撃破。
義姉と母がテレビで異変に気付く。
オレ達の家も僅かに遅れてテレビに気付く。
兄が長男を小学校に迎えに行く。何事もなく(学校側でも異変には気付いており、兄の判断は概ね歓迎されたらしい)帰宅。
この間、各自が親族や近しい人物に電話連絡を試みるも、回線が既にパンク状態で不発。
兄がオレ達の家に向かう。
連れ立って無事に帰宅。
兄の次男はウチの子と同じ未就学児だったため、これで全員が自宅に揃った。
ちなみに父と兄は神社の神主。
オレは水曜日が固定休のサラリーマン(某ハウスメーカー勤務)。
母、義姉、妻は専業主婦。
甥っ子は1人が小学1年生。もう1人が2歳児。
ウチの子は1歳11ヶ月。
今日が水曜日の仏滅だったのは、不幸中の幸いと言えるだろう。
これが土日や祝日の大安吉日なら、男3人とも仕事で出歩いている可能性が高かったのだから。
外の物音や、無音で流しているテレビの映像に気を配りつつ、オレ達は今後の動きを話し合うことにした。
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