葵島高校殺害事件

@kaimamiru

第1話

偏差値60、自称″進学校″。

学生の個性を尊重し、豊かな感受性を授け自己表現の場を作る。実に覚え易くありふれた標語であるが、実状は正反対であることも世の常である。

僕の教室には疲弊し切った生徒を前に罵声を浴びせる教師の姿があった。

僕は数学の教科担任である彼の名前を未だに覚えていないため、これからも彼の代名詞は数学の教科担任になるのだが、数学の教科担任は硬派という言葉を頻繁に使う癖がある。

例えば新学期が始まってすぐに数学の教科担任は生徒に参考書の購入を促したのだが、その時に各出版社の参考書の評価を記したリストを配布された。そのリストの中では創業80周年の出版社のやたら古い参考書を硬派と称して大々的に評価していた。私的にはその参考書は今の時代には適していないし時代錯誤だと感じる。

というかそもそも彼の性格自体が時代錯誤の塊である。前述の通り理解の遅い生徒にーー(それでも学力は充分高い部類に入ると思うのだが)罵声を浴びせ、自分の学生時代を熱く語り若者批判に走るのだから、典型的な老害である。とは言え彼は国内で最難関と言われている某大学の卒業生であり、学歴が権威の象徴である我が高校では一部の上位生徒からは未だに尊敬の眼差しを受けているのも事実である。

とすれば僕の学内での立ち位置は粗方予想がつくだろう。僕は彼に不信感を持っている故、前後が逆な気もするが、下層なのである。

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