第20話 ペジテのラステル

読者に意識されない、しかし非常に重要な第三のヒロイン。

彼女はクシャナとちがい、ストーリーの表には出なかったナウシカの影。ペジテのナウシカ。映画の終盤、ナウシカがペジテの人々にとって、風の谷のラステルになったからこそ、奇跡は起こった。ペジテ人はナウシカに亡きラステルを、心理学的に言う「投影」をした。

以下ラステルとナウシカの対話


ここは❓

風の谷よ、しゃべってはダメ

わたしはペジテのラステル。

積荷を燃やして………。

積荷? 大丈夫、みんな燃えたわ。

(ほっ)息を引きとる。


目覚めたラステル、すでに自分の死を悟っている。ナウシカを見て冷静に現状確認、ここはどこ、あなたはだあれ?

それがわかると、次のセリフは痛いでも助けてでも、かあさんでもない。巨神兵がもたらすであろう災害を防ぐこと。

だから、わたしはペジテのラステル、積荷を燃やして………。ペジテ王女である自分の名を告げることで、発言に重みを持たせる。そして積荷を燃やして。ここで巨神兵を燃やして、とは言わない。巨神兵などと言っても相手にはわからないから、伝わる語を選んだ。

そしてぜんぶ燃えた、という答えを聞き、安心して息をひきとる。自分の為の言葉はひとつぶもない。

このナウシカの答えも流石。傷をひと目見て、すでにラステルが助からないことを悟っているから、嘘はつかず、死に臨むラステルを安心させてあげたい一心で聞かれたことにただ真摯に答えている。


以上のみじかいやりとりで、ラステルが心の底まで気高い少女であり、ナウシカに劣らぬ高貴な心性を持っていることが明らかになる。

後でペジテのアスベルがペジテを裏切ってまでナウシカを助けようとした訳も、彼が重度のシスコンであろうという他に、ラステル=ナウシカの投影がある。

ラステルの母がペジテのテロリストに囚われたナウシカを助けようとする理由にも、上記の投影が前提されている。ナウシカがただ愛を叫ぶだけなら、テロリストの女たちは動かなかっただろう。


あとひとつ。

もしラステルが積荷と言わず巨神兵の語を出していたなら、ナウシカがユパさまにラステルの最期とその言葉を伝えた途端、ユパさまはカッと目を見開いて「なに‼ 巨神兵だと⁉」と叫んで巨神兵の説明が始まり、風の谷のナウシカは世紀の名作から、ただの優れた娯楽映画に堕ちていただろう。

この凄さは、後に実にさりげなく映画の間奏曲としてに挿し込まれる、クロトワの独白とユパ・ミトじいのみじかい会話を見れば、よりハッキリする。宮崎駿、彼は間違いなく、無二の天才である。


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