-SIKI-

Rau

序章


 わたしは、一枚の皿を覗いている。親指と同じくらいの深さに、わたしの頭が四つほど入りそうな口をもつ、大きな金色の皿だ。

 どうやらその皿には液体が張っているようで、少し皿に触れると波紋はもんが浮かんだ。異臭はない。いいにおいもしない。ただの水のようだ。


 いったい何に使うのだろう。不思議に思って考えていたらずいぶんと時間が過ぎていたようで、大きな翼の音と共に「グヴゥ」という唸り声が聞こえた。グラーシャだ。

 急がなくては。あの方々を待たせるわけにはいかない。わたしは急いで皿を抱えると、足早に部屋を出る。純金でできた大皿に水をたっぷりと注いだそれはとても重たいし、部屋を出てすぐのところでグラーシャとすれ違いもの言いたげな目を向けられたが、今回ばかりは気が付かなかったことにしよう。

 久々に会えた主に与えられたこの仕事は、たとえ私の体格では無理のあるものでも、主の私に対する信頼があってこそのもの。急いでこの大皿を届けに行こう。

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