吸血鬼の血袋
@EiNStEi
0.神話、あるいは講釈
かつての世界には血が満ちていた。母であり、今の大地の元となった巨人が地に伏せ、とめどない血が星を満たしたのだ。しかしその血は腐ることはなく、形を成した。それが人間の祖である。また自身の血では飽き足らず、他者の血を奪うものがいた。人々はこれを吸血鬼と呼び、忌避した。
やがて時は経ち、血は様々なものへと形を変えた。母の皮をまとい、自立するための芯となり、世界を分け隔てるための器官へと形を変えていったのだ。やがてそれは人間と呼ばれるものになった。しかし世界を牛耳ったのは吸血鬼たちだった。彼らは人々、あるいは同族から血を奪い、自らの糧とした。それは彼らを命の楔から解き放ち、ついには永遠の命を得る者すらいた。
そして彼らは国を作った。だが……何がいけなかったのだろうか? 彼らの国は唐突に業火に包まれ、ほとんどの鬼たちは死んでしまった。いくら彼らでも血を一滴残らず火にくべられれば生きていることはできなかった。
やがて人間たちの時代が来た。産めよ、増やせよという標語を掲げる聖血教会が成立し、急速に栄えていった。吸血鬼と人の間に生まれた子供かつての吸血鬼のように血に働きかける力を持ち、それは人々を癒すことに使われた。彼らはその力を利用し、人間の繁栄に一役を買ったのだ。
そうして時代は今に至る。人々は日々を過ごし、日々様々な物語を紡いでいるのだ。
ところで……昔の人々は吸血鬼が近くにいることをこう言い慣わしたそうだ。『血が騒ぐ』と。そうして我々の街の外れには『さざめきの森』があるだろう?あれはここに由来があるらしい。皆もあの森に入って血が騒いだのなら、すぐに逃げるべきだ。恐ろしい鬼が追ってきて、お前たちの血を一滴残らず、飲み干してしまうだろうから……
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