3.魔王様と黄金の聖剣使い
第13話 魔王様と次なる課題
「はぁ」
「一体どうしたのよ、ため息なんかついて。そんなにレベル2のダンジョンが不安なの?」
ダンジョン前でため息をつく俺の顔をルリハが心配そうに覗き込む。俺は慌てて答えた。
「あ、いや、そうじゃなくて……実は転校生が来るらしくてさ。しかも僕と同室になるって」
「なんだ、そんな事」
ほっとしたような顔をするルリハ。
「私、この間風邪を引いたんだけど、その時にルームメイトが授業で休んでた時のノートを貸してくれたり、飲み物を買ってきてくれたりして凄く助かったの」
「そうなんだ?」
「ええ。だから初めは慣れないかもしれないけどルームメイトはやっぱり居た方がいいわよ。例えば病気になって部屋で倒れていても、一人だと誰にも気づいてもらえないし」
「なるほど」
確かにそう考えると、ルームメイトは居た方がいいのかも知れない。要は俺の正体が魔王だとバレなければ良いだけの話だし。
「ありがとう、ルリハ。僕、ルームメイトと仲良くするよ」
「そうそう。それより今日からレベル2のダンジョンよ。気合い入れなさいよね」
バシバシと俺の背中を叩くルリハ。何だか元気がでてきたような気がした。
「うん」
気を引き締め直す。
何せレベル1のダンジョンをクリアし、いよいよ今日からレベル2のダンジョンへと挑むのだから。
ルリハがタッチパネルを操作し、2という数字を選ぶ。少しの間の後、低い音と共に入口が開いた。
期待に胸が膨らむ。レベル2のダンジョンには、一体どのような敵が待ち受けているのだろうか。
期待と不安を抱きながら、暗いダンジョンの中へと足を踏み出した。
「うわ、全然雰囲気が違う」
「そうね」
レベル1のダンジョンはむき出しの岩壁だったのに、レベル2のダンジョンは赤いレンガの壁になっている。
辺りをキョロキョロと見渡していると、目の前に巨大な影が現れた。
巨大な蝶の魔物、ポイズンバタフライだ。羽についた大きな目玉のような模様が気持ち悪い。
「見たことがない敵ね」
ルリハが後ずさりをすると、ポイズンバタフライはいきなりバサバサと羽ばたき、鱗粉を撒き散らし始めた。
辺りが紫色の霧に覆われる。
「前が見えない!」
「ルリハ、鱗粉を吸わないように気をつけて!」
こいつは毒の粉を撒き散らす魔物だ。吸い込んでも命に別状は無いが、しばらく痺れて動けなくなるのだ。
「もう吸っちゃったわよ!」
地面にうずくまったまま動けなくなるルリハ。そこへポイズンバタフライが体当たりしてくる。
「きゃあっ」
「ルリハ!」
霧に視界を奪われながらも、必死でダガーナイフを前に出す。
ナイフはすんなりと体に吸い込まれ、ポイズンバタフライは力なく地面に落ちた。
良かった。物理攻撃にはあまり強くないみたいだ。
肩で息をしながらルリハを助け起こす。
「はぁ。助かったわ」
「大丈夫そう?」
「大丈夫。けど何だか頭がクラクラする……」
青ざめた顔で、苦しそうに肩で息をするルリハ。
「待ってて。今、ヒールするから」
慌てて回復魔法をかける。
――がルリハの顔色は一向に良くならない。唇まで真っ青で、体はガタガタと震えている。
「ヒールが効かない?」
頬を汗が流れ落ちる。ひょっとするとヒールでは毒まで消せないのかもしれない。
「仕方ない。保健室に毒消しがあったはずた。今日はこの辺で切り上げよう」
「でも折角来たのに」
無理して起き上がろうとするルリハ。俺は強く首を横に振った。
「いや、無理は禁物だよ。今日は初日だし、様子見という事にしよう。ねっ?」
必死に説得すると、ルリハは下を向き、渋々同意した。
「分かったわ。そこまで言うのなら」
ルリハに肩を貸し支えてやると、二人でフラフラと入り口へと引き返す。
おかしい。レベル1から2に上がっただけなのに、こんなに強い敵が出るなんて。いきなり難易度が増しすぎではないか。
◇
ルリハを保健室に送り届けると、俺はその足で図書室に向かった。毒消しの魔法を調べるためである。
「あった。これだ」
魔法書を二、三冊読み漁り、ようやくキュアという毒消しの魔法を見つけた。
「必要魔力……うーん、結構高いな」
今の俺では魔力が足りなくてとても扱えそうない。せめてレベルをもう1つか2つ上げないと厳しいかもしれない。
もう何度かレベル1のダンジョンに潜り、レベルを上げてから挑むべきだろうか。
折角レベル2のダンジョンに来たのだし、できれば先に進みたいのだが。
「購買で毒消しの薬でも買って対策すればいいかな。案外それで何とかなるかも」
今の時間では購買ももう閉まっているだろうから、明日買っておくか。
窓から外を見ると、調べるのに夢中になっていたせいか、辺りはもう半分夕闇に包まれていた。
ルームメイトも来るというし、そろそろ寮に帰るべきかもしれない。
人の気配のない廊下を一人で歩く。がらんとした校舎はいつもと違って何だか不気味だ。
それに――不気味なだけじゃない。
まとわりつくような、闇の底から湧き上がってくるような、嫌な気配がするのは気のせいだろうか。
――ドクン。
不意に心臓が鳴った。
嫌な気配は気のせいではない。
生徒玄関口まで来たところで、目の端に黒い塊が映ったのだ。
初めは人間がうずくまっているのかと思った。だが違う。そこには黒い影があった。
西日に照らされ、影がゆっくりと振り返る。
そいつの顔はネズミだった。ネズミの姿をしたモンスターが玄関口の隅から俺の方をじっと伺っていた。
大型犬ほどもある黒い体に、真っ赤に光る目。硬い毛皮は脂でも塗ってあるかのように光り、ドブのような臭いがあたりに漂う。
モンスターだ。
思わず後ずさりをする。
おかしい。学校の周囲には結界が張ってあるはずだ。なぜ校舎の中にモンスターが。
俺はゆっくりとダガーナイフに手をかけた。
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