警護につくのは、歳下マッチョな幼馴染のようです。
「マイト……あんたどうしてここに?」
長身短髪の少年――マイトが扉に背中を預けて立っていた。
マイトはあたしのうちの裏に住んでいる少年で、幼なじみ。一つ年下であるのだが、この町の少年たちの中ではもっとも戦闘に長けている。彼の父親がこの町の用心棒をやっている影響を受けているのだろう。
「神殿までの警護を任されたんだ。本来なら俺の親父がお前を警護するはずだったんだが、運悪く大事な予定があってな。その代理だ」
「そういうことなんだよミマナ君。わかってくれたかな? だから、その、手を離していただけないかな?」
――マイトがあたしの警護を?
意外だと思うと同時に、それなら大丈夫かもなんて安堵してしまう。知らない男どもと旅をするより、知っている人間が近くにいてくれたほうが良い。身の安全も必要だが、精神的にも護ってほしいってのが正直なところ。その両方を満たしてくれるのはマイトしかいない。
「――って、ごまかされませんよ! 神殿までの警護はそれでいいとしても、帰ってこれるか保障されているわけじゃないんでしょ! そんなところにはあたしは行けないって言っているんです!」
「なに苛立っているんだ? ミマナらしくない」
つかつかと隣までやってきたマイトは、あたしの手に自分の手を添える。
「俺がお前を死なせたりしないよ」
「マイト……」
――な、なに格好つけているのよ、こいつ。
あたしはしぶしぶ手を離す。自由になった町長は軽く咳き込んで席に腰を下ろす。
「だいたい、お前が簡単に死ぬタマか? 俺より強いくせに」
ガンっ!
あたしの真っ直ぐな拳がマイトを捉える――かに見せかけて、手を捕まれた。
――ふ、不意打ちを狙ったのにっ!
マイトはあたしの手を掴んだまま、顔をこちらに近づけてくる。にやついた顔で。
――む、むかつくっ!
「おやおや。だいぶ切れが落ちているようで。久しぶりに組み手でもしないか? 俺が手ほどきするぜ?」
「うるさいわね! 泣き虫マイトの癖に!」
「いつまでもあの頃の俺と同じだと思っていたら痛い目に遭うぞ? あと、自分が女であることも忘れるな。露出多すぎ」
「へへんっ! このあたしを襲おうって奴がいるなら会ってみたいものね。仕返ししてやるんだから!」
力任せに腕を振ってマイトの手から逃れる。
――う……また腕を上げてるし。
あたしの力が落ちているのは認める。お母さんが病気で寝込むようになってからは修行なんてしていないし、どんどんと女らしくなっていくこの身体の限界も感じている。小さい頃こそマイトに勝ち続けていたあたしだが、今はきっと負けてしまうだろう。あたしの背を彼が抜いた頃からいつかはそうなると覚悟していた。覚悟していたけど――。
――とにかくむかつくっ!
「すみません! 緊急事態です!」
ドンッ! ガンッ!
勢いよく開け放たれた扉が壁にあたる大きな音。
入ってきたのはきちんとした服装でびしっと決めた青年。右手に書類の束を抱えている。彼の顔が青ざめている様子から、ただならぬことが起きていることは想像できた。
「なんだね? 騒々しい」
町長の声に、あたしとマイトはさっと離れて机の前を空ける。
「各町から通達です! すぐに目を通してください」
「こんなに? ……!」
どんっと置かれた書類に視線を向けるなり固まる町長。表情が強張っている。
「そんな……」
書類の内容が気になったあたしは、ちょっと覗き込んで冒頭を読む。
――な、なんですって?
見間違いかと思った。そんなことがあるとは、信じられなかったから。だからあたしはその書類を奪って、その紙の束をぺらぺらとめくった。
「うそ……」
その衝撃に耐えられなくなったあたしは、その場にへなへなと座り込んだ。
――ありえない。
結論はそれだけ。悪夢を見ているようだ。じゃなけりゃ、誰かが大嘘をついているか。
だって、一晩で町が消滅するだなんて信じられる? それも、複数の場所で、よ?
「――いずれの町も、今年選出者を出したところですね」
あたしの手から書類を取り返したのは女性秘書。書類を目でしっかりと見ておきながら、対応は非常に落ち着いている。
「そのようだな」
「そのようだなって、おい」
秘書と町長のやり取りに口を挟んだのはマイト。
「その相関関係が認められるなら、この町も危険だってことだろ? 違うか?」
「それを知らせるために、町を通りかかった者か生き残りかが使いをよこしたのでしょう」
どこまでも冷静な女性秘書。
「お前……よくそんなに冷静でいられるな。町が一晩で、だぞ! そこに住んでいた人間が消されてしまったってことは大変なことじゃないか!」
「えぇ、それはわかっております」
「わかっていたらそんな態度ができるわけないだろうが!」
女性秘書に詰め寄ろうとするマイトを止めたのは意外にも町長の腕。
「やめるんだマイト君。彼女は充分に動揺している」
「動揺って――」
「消滅した町の中に、彼女の出身地が含まれているんだ。責めないでやってくれ」
町長から女性秘書に視線を移す。
「!」
「――それを言わないでほしかった……。認めたくありませんでしたのに」
顔を伏せると、女性秘書は部屋を出て行ってしまう。
「……」
しゃがみこんでいたあたしからは彼女の表情がよく見えた。涙を浮かべていたのだ。たぶん、彼女の両親は町の消滅に巻き込まれて亡くなっていることだろう。生きている可能性は絶望的。
「――これは、前代未聞の事態だ」
静かになった部屋に町長の声が響く。
「そこでミマナ君。君に依頼したい」
「は、はい」
あたしは町長に声を掛けられて何とか立ち上がる。
「町の消滅と選出者の因果関係を探ってきてくれ。そして、無事に帰って来い」
「端からあたしは無事に帰還するつもりでしたけど?」
こんな気になることが起きたら一歩も引けない。何故町が消滅したのか、それも今年選出者を出すことが決められた町に限って。
「その返事が聞けて頼もしい限りだ。こちらも君のためにできることは全面的に協力しよう」
「はい。きっと必ず」
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