三十三話 これで準備は整った!
「シロイト、世話になったな」
「なに、良い勉強をさせてもらったよ」
完全に復活を遂げたシロイトとラフィア。少しの雑談をしてから余裕を持って帰り支度を済ませたリーシェッド一行は、町の中央より少し外側に寄る祭壇へ足を運んでいた。
コルカドールの首から下がる純白の羽を装飾した首飾り。シンプルなのにどこまでも品のあるそれを手の平に乗せる少年は、早速効果が発揮されたのかもう微睡みに襲われることはなかった。
「またお礼に来ないとね。今度はミッドフォールとガルーダの三人でお邪魔するよ」
「待っているぞ。世界を跨ぐ旧友よ」
来訪者達の身体が光に包まれ、狭間から元の世界へと帰還する。
静かに見守るシロイトの後ろに足音が鳴る。振り返った彼は、少し驚いた様子で目を見開いた。
「なんだ帰っていたのか」
「まぁねー。あの人たちがいるなんて驚いちゃった〜」
ふわふわとした口調で、おどけて額を拭う素振りを見せる少女。その掴みどころのない仕草に苦笑しながら、シロイトは問う。
「母親だろ、会わなくて良かったのか?」
「んー、ママはあたしのことを知らないもん。それに、パパのことでいっぱいいっぱいみたいだったし? 今じゃないかなぁなんて」
真っ赤な尻尾を陽炎のような揺らしながら、少女は北に身体を向ける。
「いつかちゃんと名乗り出るんだぞ。ラフィアはああ見えて子煩悩だ。きっと喜んでくれる」
「……ま、考えとくねぇ〜」
そう言って、少女は消えるようにドラゴンの里目掛け飛んで行った。
残されたシロイトが溜息をつく。深く歪んでしまったラフィアの家系。もし、今のような平和な世でスタートを切れていれば誰よりも幸せな家庭であっただろうと肩を落とした。
「強く生きろよ。スフィア」
父親と同じレアラベルとして世界中をふらふらと飛び回る彼女が何を思うのか、誰一人知る由もなかった。
リーシェッド達が魔界へ舞い戻ってすぐ、彼女はコルカドールが事前に準備しておいた書状を手にガルーダ領へと直行していた。
天空城のバルコニーで紅茶を片手に書状を確認するガルーダ。丁寧に最後まで読み上げると、頷きながら安堵した。
「ありがとうリーシェッド。お陰で円滑に事が運びそうだよ」
「それは良かった。お前の人選も驚くほど機能したぞ。まるで未来でも見えているかのように歯車が噛み合った」
「そうなのかい? シロイトと会いやすくなればと思ってのペティと、ドラゴンの里があるからラフィアを選んだだけなんだけどね」
行き過ぎた成果に首を傾げるガルーダ。大した予想はしていなかったようだった。
ふと思い出したリーシェッドは、まだ晴れない疑問を聞いてみることにした。
「なぁ、なんでスケルトンは駄目だったんだ?」
「簡単だよ。ドラゴンは人骨も食べる種族だもの。大昔、人間に恐れられていたのはそれが理由だしね」
「なるほど……んん!?」
納得はした。しかし、それならそれでまた問題が増えてしまう。
「いや、うちの城さ、ラフィアとココアは同じ部屋に住まわせてるんだけど……」
「あはは、骨は骨を食べないでしょ」
「それも、そうか……」
一緒になって苦笑いをしてみるリーシェッド。彼女の上空には、聖魔力が溢れてしまい魔界でも本来の姿を取り戻した黄金の龍が漂っていた。
「ところで、その首から下げてるのはなんだい?」
「これか? シロイトの羽を引っ掛けただけのネックレスだ。コルカドールも同じものをしてるのだが、せっかく二つも羽が手に入ったからお揃いで付けたいと女々しい事を言っておったのだ」
「ふーん、相変わらず彼は君にお熱なんだね。さ、ハーピーの秘術を教えるよ。実験室へ行こう」
「は、はーい」
心配事が尽きない不死王は、身体に影響が出ないように完全に力を封じ込められた羽を弄りながら実験室へ向かう。そして、無事に【魔力結晶化】を習得する事が出来たのであった。
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