二十八話 数百年ぶりの帰郷
晴天を風を切る黄金色の龍と、その主である一人の王は目的地へ着実に距離を縮めていた。逸る気持ちを押さえ付けるラフィアは、リーシェッドへ昔話をすることで心を落ち着ける。
「マークツーって変なやつでさ、ドラゴンなのに鱗がないの。親はシルバードラゴンなのに全身長い毛で覆われてるし、すっごく柔らかいのよ」
「ほぅ、シロイトみたいなもんか?」
「あんなデブと一緒にしないでよ。もっと格好良くて、可愛くて、そんで、あたしのことが好き過ぎていつも尻尾を振ってたわ」
「なんだなんだ愛されておるな。熱烈な求婚に絆されたのか?」
「ううん、あたしから言ったの。番になるから覚悟しなさいって。縄張りが近くて小さい頃から一緒だもん。あの子がそういうこと考えるずっと前から惚れちゃってて」
「おぉ! ラフィアは乙女だな!」
ラフィアは恥ずかしそうに身体をくねらせる。その動きに振り落とされそうになったリーシェッドは、すぐに抱きつくように身を屈めた。
「どこに惚れたのだ? 力か? 顔か?」
「性格かなぁ。優しくて太陽みたいにぽかぽかしてて、一緒にいると時間がゆっくりしたみたいになるの。でも、彼と遊んでるとあっという間に夜になっちゃってたり。あぁ、あたしはこの子に夢中なんだって思っちゃって」
「お、おぉ……」
「他の雌と仲良くしてるのも腹が立つし、番になってからはみんなに『あたしのだから触るな』なんて威嚇しまくってたわね」
「お前……独占欲の塊じゃないか」
意外とヤンデレなラフィアに少し引いたリーシェッド。そんなラフィアを笑顔で受け入れるマークツーというドラゴンの心の広さに感服していた。
「あ、でもみんないい子なのよ? あたしと同期の子達は色んな種族がいて、個性的な友達ばっかりで毎日楽しかったぁ」
「同期? 変な言い方をするな」
「同い年ではないし……同期ってママは言ってたわ」
「ふーん」
いまいち理解し切れないリーシェッドであったが、ラフィアの
「ラフィア。目的は龍玉だが、せっかくの帰郷だ。入口からゆっくりと回ることにしようか」
「え、いいの? さっきは興奮しちゃったけど、従者であるあたしの都合に合わせなくてもいいわよ」
「好きなようにしろ。従者は奴隷じゃない。我はお前のことがもっと知りたいのだ」
「そ、ありがとね」
リーシェッドのこういう所こそ、ドラゴン最高位であるラフィアが仕えるに値すると見込んだ部分でもあった。お言葉に甘えさせてもらう事にしたラフィアは、一番奥の自分の縄張りから視線を逸らし、少し手前の入口付近へと降下を始めた。
リーシェッドが初めに受けた印象は『意外と器用なんだな』に尽きた。
ドラゴンの里という文字並びから野性味の溢れる岩山の切り出しに、
ラフィアがキョロキョロとすれ違う顔を確認していくも、知り合いが一人もいないのか少し寂しそうに羽を縮こませた。
「そりゃ、あれから千年以上も経ってれば顔ぶれも変わるわね。魔神の進撃でだいたい死んじゃったのかしら」
「これだけの数が繁殖しておるのだ。全滅は有り得んだろう。もっと奥を調べてみよう」
「ええ」
大通りをどっしりと歩くラフィアはやけに人目を引いた。しかし、物珍しそうに耳を立てる者はいても、そもそも黄金の鱗が特徴のマザードラゴンを知っているものはいなさそうだ。
そんな時、一匹の小さな翼竜がラフィアの前をうろちょろして目を輝かせた。生後数年の子供ドラゴンを見つめるラフィアの目は、昔の仲間を思い浮かべて微笑む。
「どうしたの? 可愛いお嬢さん」
「ねぇ、お姉ちゃんは外から来たドラゴンなの?」
「そうよ。生まれはこの里だけど、ず〜っと昔からお仕事でいなかったの」
「そうなんだ! おかえりなさい!」
小さな足でぴょんぴょんと跳ねる小竜は、羽をバサバサと振ってラフィアを歓迎した。まだ飛べないのか、羽ばたきながら走り回る彼女はそのまま転んでしまった。
「あらあら、大丈……」
「こらオオゾラ! また訓練を抜け出したと思ったらこんな所に……」
建物の影から現れた一匹のワイバーン。竹を割ったようにハキハキとした物言いに遠くまでよく通る声の彼と対面したラフィアは、驚愕に固まる。
「カラタケ……」
「お前、まさかラフィアか……?」
ラフィアの言っていた同期。その一人であるワイバーンのカラタケは大きな身体を震わせていた。
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