二十六話 どうしてそんな事をするのだ
いよいよ向き合って腰掛けるリーシェッド達とシロイト。シロイトは短い足と腕を組む。
「どうした? 俺の姿がそんなに珍しいのか」
「噂というのは当てにならないものだな。フェニックスとは緋の羽を持つ巨大な
「雄鶏だけは正解だよ」
「一番どうでもいい正解だな」
可愛らしいフォルムに落胆したリーシェッド。それを愉快そうに笑うシロイトは、してやったりと頬をつり上げた。
「魔王でさえそのイメージなら、ミッドフォールとガルーダは約束を守ってくれたみたいだね。俺は存外臆病な
「詫びなど要らん。ここに来たことがあるくせに知らなかったコルカドールが悪い」
リーシェッドがギロリとコルカドールを睨むと、彼はいつの間にか目を閉じて寝息を立てていた。驚いたリーシェッドが揺すっても一向に起きることなく、遂には彼女の肩に身体を倒して熟睡する。
「また寝たのか。仕方のない奴だなぁ」
「なるほど、聖王がわざわざ出向くわけだ」
「どういう事だ?」
陽を浴びた布団のように柔らかな金髪を弄るリーシェッドに対し、シロイトは少し考える素振りを見せた。
「もしかして彼は、『フェニックスの羽が欲しい』と言ってなかったか?」
「おぉ、よく分かったな。確かにそう言っていたぞ」
「わかるさ、
「ん? 眠っているのはいつもの事だぞ。ここまで酷いとは知らなかったが……」
リーシェッドがコルカドールについて正しい認識をしていない事に気付いたシロイトは、どこから説明するべきかと頭を捻る。
「まず、彼の『眠気』の理由は知っているのか?」
「魔神を屠った際の聖域の影響だろう。一度発動した永続魔法の聖域に魔力を取られ過ぎないためだと聞いている」
「なかなか筋の通った嘘だ」
「……嘘?」
シロイトは両手を突き出し、テーブルの上に二つの氷塊を生み出した。
「なんだこれは」
「今からする話の
リーシェッドの手が順番に氷塊に触れていく。見た目に違いはなく込められた魔力もほぼ同じ。なのに、左側の氷塊に触れた瞬間僅かな脱力感と眠気に襲われた。
「これは、コルの魔力?」
「正確には聖属性の魔力だ。聖魔法の本質は安らぎの眠り。つまりコルカドールは自分の魔力に当てられて眠っているのさ。彼が俺の元へ来たのは、俺が半聖獣だからその力が借りたかったのだろう」
「わけがわからんぞ……」
シロイトの説明会はかなりの時間を要した。
フェニックスが魔獣と聖獣のハーフであり、その特異な魔力変質を持って不死鳥となった話から始まり、聖域の効果とコルカドール領の関係性。フェニックスの羽と呼ばれるアイテムについて語るまでには何度か小休憩まで入れられていた。
そして、全てを聞いたリーシェッドが簡潔にまとめる。
「つまり、魔神の魔力を浄化する聖域が劣化しているせいで、コルが流し込んだ魔力が変質しながら漏れて自身に返ってきてしまっていると」
「そうだ」
「既に巨大な聖域を持続させているコルだけでは新たに張り直す事も出来ず、その為に聖獣の魔力の塊であるフェニックスの羽が必要だと」
「そうだ」
「でも、シロイトは羽を渡さないと」
「そうだ」
「さっさと渡さんかひねくれペンギン!!」
リーシェッドが渾身の鉄拳をお見舞すると、シロイトはその拳を口で受け止めた。
「うぉおおお咥えやがった! 離せ! 離さんか! おい!」
「ふっふっふ、ひひはひひふーほはおらぁはははいあ」
「その状態で喋るな!! ちょっと舌が触れて気持ち悪い!!」
「れろんれろん」
「舐めるなと言っとるのだぁああああ!!」
ブンブンと腕を振るうリーシェッドに負けじと食らいつくシロイト。リーシェッドがだんだん涙目になってきたところで、更なる不幸が訪れる。
「あーつっかれた。ここまで来るのに何時間かかるのよバッカみたい……」
「おーラフィア! ちょうど良いこのイヤらしいペンギンを燃やしてくれ!」
「ちょっと!? 私の主になんて事してるのよ!!」
「言ってやれ言ってやれ!」
「主を噛んでいいのは私だけなの!!」
「ばぁあああお前やめろぉおおおおお!!」
右手を咥えられたまま、ラフィアに頭をパクッといかれたリーシェッドは次第に動きが鈍くなる。そして、閉ざされた視界で震えながらコルカドールに手を伸ばした。
「オッ! ヒダリテアマッテンジャ〜ン!(ぱくっ)」
「…………」
ペティ・ジョーが悪ノリを発動した結果、リーシェッドは考えることをやめた。
「え……何してんのリーシェッド?」
「…………」
目を覚ましたコルカドールは、格下達に両手と頭を齧られて沈黙する不死王にドン引きしつつ、しかし、ちょっと面白かったのでその光景を手持ちの紙に写生して
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