十八話 横入り禁止!
「うぐぅっ!」
タルタロスの一撃は、ラグナの体力を確実に削り取っていた。同じパワータイプの魔物同士、特殊な宝具を持っているタルタロスの方が上回ってしまう。
「くそっ」
「ラグナ、諦めろ」
「誰が!! 」
体勢を立て直して再度飛び掛るラグナ。渾身の蹴りが炎鐵をすり抜けてタルタロスの身体に辿り着くも、そもそも防御特化の炎王には片腕で止められてしまう。ただの力比べではタルタロスが一枚上手であった。
大槌の内側に入ったのが好機である事に間違いはない。ラグナの強烈な乱打がタルタロスの胴体に打ち込まれる。
纏まり着くように密着されると、流石のタルタロスであろうとダメージが蓄積していく。深手を負う前に振り払うため、タルタロスは自身の身体をバラバラに分解した。
「ぐぉおおおお!!!!」
離れた身体は高速で回転し、岩の竜巻の中にラグナを捕らえた。荒れ狂う灼熱の岩に硬い表皮がズタズタに裂かれていく。
しかしラグナは、その回転を上手く利用して尻尾の回転率を上げる。中から逆に全てを弾き飛ばされたタルタロスが呻き声を上げ、竜巻を解除すると距離を取って再接合させる。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「う、うぅ、ぐ……」
互角とは行かずとも、ラグナの執念にタルタロスの優勢はだんだん落ちていく。まだラグナとの戦闘に
「ラグナ、頼む、罪を重ねるな」
「情けねぇ声を出すなタルタロス! 俺とお前の道は違う。お前にとって俺は罪人だが、俺にとってのお前も大罪人だ!」
「ラグナ……」
「もう止まれねぇ所まで来てる。そうだろ? どちらかが死なねぇと収まりはつかないんだよ!」
「ゴォオオオオオオオ!!!!」
それは泣き声のようにも聞こえるほど寂しい雄叫びであった。タルタロスはわかっている。ラグナを止めらめない。その信念が噛み合っていない。彼に、言葉は届かない。
炎鐵から空を焼くほどの炎が立ち昇り、辺りは真っ赤に照らされる。殺すしかない。楽にしてやるしか彼を救えないと、決意を固めた。
消耗の激しいラグナには、これを止める術はない。しかし、最後まで抗う事で約束果たそうとしていた。平和な世界を作るという迷いのない決意を胸に、残る魔力をその手に握る。
幼い自分たちは、夢を見ていた。
それは同じ夢。二人だけの約束。
方法は違えど、二人は実現させた。
だからこそ……。
「はぁあああああああああ!!!!」
「グガァアアアアアアアア!!!!」
どちらかが消える。
「馬鹿馬鹿しい」
命を賭した最後の一撃。それは、相手に届く前に何かに阻まれて跳ね返った。
自身の攻撃力に吹き飛ばされる両者は、間に入ってきた一人の魔王を睨む。タルタロスが怒気を露わにして叫んだのは、この時が初めてであった。
「リーシェッド!! 邪魔をするな!!」
「邪魔はお前だタルタロス。我は仕事中なのだ。クエストの横入りはギルドのタブーだろうが」
「そんな話を!! しているのではない!!」
リーシェッドは両手を軽く振って、二人の攻撃を跳ね返した黒魔法【死者の虚像】を解除する。地獄乙女の腕とその手の鏡が消えると、呆れたようにタルタロスを
「で、なんだ今の腑抜けた攻撃は? 相手を殺す勇気もないくせによくでかい口が叩けるな」
「そ、それは……っ!」
「黙って聞いてれば、やれどちらかが死ぬしかない、やれ収まりがつかないと臭い文句ばかり並べおって。恥ずかしくて見ておれんわ。男らしさを履き違えて酔ってるのか貴様ら? あー我は女でよかったー。こんな恥ずかしい男にならなくて本当によかったー」
女子から煽りに煽られたタルタロスは上手く言い返せず、力無く炎獬を下ろす。まるで親に叱られた子供のようにいたたまれない。
気の弱いタルタロスの戦意を地の底まで落としたリーシェッドは、改めてラグナに向き合う。その身体は未だボロボロのままだったが、先程までの悲痛な顔が嘘のように元気そうであった。
手も足も出なかったリーシェッドがタルタロスの攻撃すら簡単に止めてしまったことで、ラグナの頭は完全に平静を取り戻していた。
「不死王、子供のお前にはわからんだろうが、俺とタルタロスには複雑に絡み合った過去が……」
「過去は過去だ。この意味がわかるか?」
一度息を飲み込むラグナ。その間で理解出来ていないなと悟ったリーシェッドは、腕をぐんぐんと回して深く構えた。
「馬鹿でも理解出来るようにわかりやすく教えてやろう! お前が負ければ我に従えと言うことだ!」
「少し元気になっただけで思い上がるなよ」
「なぁに、お前らの難解な問題。我が手軽く解いてやろうというのだ。まずはその跳ねっ返りの性格を矯正してやろう」
「……本当に不愉快な餓鬼だ」
リーシェッドの自信に満ちた顔が、不快極まりないラグナだった。
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