第28話 力の根源
「――どういうことだ?」
前に言っていたことと見事に矛盾している。初めて会った時から殺そうとしてきたじゃないか。
これから森野の所へ乗り込もうとしてるタイミングで何を言っているのだ、この女は。
「あたしは最初っから、アンタのために行動していた――そういうことよ。自分の目的と並行しながらね」
「最初から? 家を壊した時からか?」
「そう。獲物だとか言っても殺そうと思ってなかったし、いざという時はあたしがアンタを守るつもりでいたわ」
「アンタに撃った銃弾は狙ったと見せかけてわざと外したし、元濱の時も本当はアンタを守るために駆けつけたのよ」
真剣な口調から次々と明かされる真実――だがそんなことよりも、先に冒頭の
「でもオレの家を壊したのはお前じゃないか!! あの攻撃でオレも危なかったし、死んでたらどうするんだよ!!」
すると、車はちょうど横断歩道で止まった。
「あれはごめんなさい。森野や他の連中を騙すためには仕方が無かったのよ」
「全部終わったら、アンタの家が元通りになるようにあたしが何とかする。これで納得いかないのならお金でもプレゼントでも
「今言ったな? 必ずだぞ。管理会社への対応とか面倒だから、カネとか片付けとか色々手伝ってもらうからな」
黒い笑みを浮かべる鉄生。何でもする。確かにそう聞こえた。たっぷり礼はもらうからな、そういう目でイリアを見る。
「……――ええ、巻き込んだお詫びはいくらでも」
勝ち気で明るい時とは一転、謝罪からの低い声は後悔と自責を含んでいた。
事の始まりはこの少女があの爆発とともに突然やってきた時だ。その後も行く先々で現れて、立ち塞がっても逃げ切った。
今ならばその行動も全部辻褄が合う――二子玉川でスマホとモバイルバッテリーを渡したのも。
敵を騙すにはまず対象から――。
スパイはそのためにも不本意なことを、敵に気取られる事なく平然と行わなければならない。
森野と円川組の連中を欺くため、先陣を切って真っ先に乗り込んだ――見せつける必要があった。自分が優秀な殺し屋だと。
リスクを承知ですべての殺し屋の誰よりも先に奴らの
「お前がオレの居場所をすぐに把握して先回り出来たのはなんでだよ?」
「あたしの勘――というのは半分嘘で、アンタのスマホに発信機のマルウェアをつけさせてもらったわ。あたしのスマホと連動するように」
スマホを忘れて家を飛び出したのは何を隠そうこの男。
最も、家は壊れ瓦礫が散乱し、何が起こったのかも分からない中、銃口を向けられた状況下では回収は不可能に近いが。
置き去りにされたそのスマホは、荒廃した部屋で拾い上げられるとマルウェアを仕込んだUSBを差し込まれ、その後逃避行する持ち主のもとに返却された。ついでに生き延びてもらうため、モバイルバッテリーも一緒に。
その間はずっと二子玉川駅への先回りを意識し、鉄生の命を狙う殺し屋を演じ続け、彼が無事に二子玉川を脱出するとヘリに乗り込み、追跡を行った。
マルウェアは鉄生のスマホのGPSを介して、イリアのスマホに映るマップ上にアイコンを表示させることで、所有者の位置情報をリアルタイムで筒抜けにする発信機。
この男がもしも忘れていなければ、彼女はどうしていたのか――それは神のみぞ知るというもの――。
イリアの経緯を飲み込んだ所で、鉄生の質問は核心を突くものとなる。
「お前がそこまでして、オレに味方する理由ってなんなんだよ? それになんでわざわざ森野側に潜入しているんだよ?」
当初は敵と思っていた少女が実は、自分のために行動していたという実感がまだ沸かない。
あまつさえ親切に謝罪しお詫びまでくれる始末。しかしそれだけ話されてもこの少女の行動にはいくつか腑に落ちない事が多い。
「森野汪。あいつは今は
「その根源たる物ってなんなんだよ?」
「……装備すれば、精神を糧に誰もが異能を行使出来る
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