第23話 赤く染まった鉄拳
無駄に人が右往左往する街の中。
灰色の雲の下、靴の裏と地面が密着する音が無数に響き、青になった信号が古臭い音楽を奏でる――。
ゴミの周りを飛び交うカラスの群れをかき分けるように背中の間をくぐり抜け、遠くを歩いてるそいつの背中を追いかける。
赤信号の前でそいつは立ち止まった。足音を立てないように、そいつの二メートル前にそっと迫る。
こちらに気づく様子はない。何を考えているのなか知らないが、その視線は赤信号の道路に向いている。
絶対に許さない。貴様のせいで何もかもぶち壊しにされた。輝かしい栄光、名誉。一瞬にして砕け散った。
毎日が散々だ。それまで自分を褒めたたえ、騒いでいた馬鹿ども。
まるでこちらに親友でも殺されたんじゃないかというぐらいの怒りと憎しみを投げつけてくる。それに便乗して信用してた奴まで一緒になって笑ってきやがる。ゴミみてえな日常だ。
――このまま
憤怒と怨恨を燃料に立っていた場所から駆け出す。まずそいつの後頭部に鉄拳を食らわせる。
うつ伏せに倒された所に乗っかる。何度も、何度も鉄拳をブチかます。赤く染まるまで――怪物のように叫び――大粒の涙を流し――。
その光景を見たある者は厳しい表情や不快な眼差しを向け、感情に囚われた野獣を恐れた者は早々にその場を立ち去る。
「やめろ!! 何をするんだ!!」
後ろから勇敢な誰かさんに掴まれて無理矢理剥がされそうになる。ウザい、邪魔するな――。
剥がそうとした、勇敢な誰かさん――年が同じぐらいのそいつの連れと思われる誰かを体当たりして突き飛ばし、更に追い打ちで倒れたその者を何度も何度も殴って肉を貪る狼の如くボロボロにする。
――連れの者ならちょうどいい。こいつもヤってやる。あいつへの復讐のために。
そこに黒い服を着た二人の警官――周りの通行人が通報したのだろう――が現れ、前を遮る。体格も歴然なその強い腕力に敵うはずもなく瞬く間に取り抑えられ身動きがとれなくなる。
ジタバタ暴れても振りほどけるわけなどなく、連れて行かれる姿はまさに悪ガキが御用になる滑稽な姿そのまま。
「離せぇぇぇぇぇ!! おれはあいつに……復讐するんだよ!!」
「落ち着きなさい!! 君、ちょっとそこの交番まで来てもらうよ」
「至急、救急車を呼んでくれ!! 意識がない!!」
「こっちの子供も気を失っている!! 急いで救急車だ!!」
応援の警官が更に二人やってきて、血まみれになって倒れている少年と、それを庇おうとして倒れた少年に駆け寄る。
緊迫した現場――現場に通行規制を敷く警官の声とパトカーのサイレンが辺りに響く。
西国分寺の横断歩道前で、中学生の少年二人が後ろから同学年の少年に襲撃され、病院送りにされた。
だが、所詮は街中での子供のくだらない喧嘩と見られたのか、それとも人々の気まぐれか――たまたま通りかかった者や三人の少年の親族、学校関係者しかこの事件を知ることはなかった。
被害を受けた少年のうち、最初に殴られた一人は一週間の入院生活を余儀なくされた。もう一人は三日間。
一方、加害者である少年の行方――警官に連行された後を、正確に知る者は誰もいない――。
しばらくして、彼を心配し、訪ねてきた少年に教師はこう言い放った。
「そんな生徒はこの学校にはいないよ。何を言っているんだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます