第12話 630メートルの通路を抜けて
その事実をメッセージで知るや否や、鉄生は荷物を待つ城崎を捜して走り出す。
手荷物の到着を待つ客が行き交う中、走って辺りを見回していると見慣れた背中――黒いダウンジャケットに青のニット帽――を見つけた。
「おーい、城崎!! 高谷と元濱が先に帰った!!」
それを聞いた城崎は、マジかよとすぐ目を丸くした。先ほど高谷からのメッセージがきたこと、ルシエルライナーが終電であることを早口で伝える。
「それはヤバイな……テツ。とにかくまずは僕の荷物捜すの手伝ってくれよ!!」
早く見つけて出るぞ――意気込んだ矢先、鉄生の視線の先にあるものが映る。その瞬間、我先にと走り出していた。
一列に流れてくる荷物の数々。その中に、この時期だと氷を思わせる水色のスーツケース。自分の手荷物ではないとはいえ旅行中、常に友人の手にあったそれを見逃さなかった――。
行きの際、夜中にこの空港に着いてまず驚いたのが、この全長630
夜ももう遅い。高谷と元濱はとっくにここを抜けた、自分たちも早く帰りたい。
それぞれのスーツケースを引きながら、冬場で凍てつくターミナル間を繋ぐアクセス通路を駆け抜ける。
飛行機が飛ぶ第三ターミナルと、駅のある第二ターミナルを繋ぐアクセス通路。
この空港は第一、第二、第三のターミナルで分けられ、第二と第三のみこの通路を使って行き来できるがおよそ十五分かかる。
競技場のトラックの線が敷かれ、道幅は広く、通行人も時折すれ違うだけで殆どいない。
途中にベンチと自販機がある休憩スペースもあるが、無論こんな真冬に休憩する者はいない。休憩している余裕もなかった。
置いてかれた焦りと凍える風に、体力を奪われながらも全長630
ルシエルライナーに代わる電車は、この地下へ続く階段を降りた先から出ている。狭い切符売り場と小さい改札口を抜けた先には、そのホームへと長い廊下と階段が続く。
地下――切符売り場への階段を前にして立ち止まる鉄生。
先を行く城崎は、今にも階段を降りようとしている。早く電車に乗りたそうにくたびれた顔をして、高松から持ってるスポーツドリンクを飲みながら。
――そろそろだな。
鉄生は気を引き締めつつ城崎の背後に歩を進めながら、口を開いた。
「なあ、城崎。カネ貸してくれよ。オレ、こっからタクシーで帰るわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます