第10話 カネ
「城崎。お前は本当に何も知らなかったんだな……」
「あぁ。今起こってること、僕は何一つ覚えがない。テツもよく生きてたな」
「何とかな。
実に二週間ぶりの再会。四国旅行の
自分が黒幕であると考えて乗り込んできた鉄生を、ミニテーブルを挟んで向かいに座らせた城崎は、まずは事態を把握するために彼にここまでの経緯を話させた――。
鉄生に送られてきた白い封筒――その中にあった、全ての始まりである一枚の手紙。殺害予告および脅迫とも言えるその内容に、城崎は全く身の覚えがない。
唯一あるとすれば、合計で十三万円を鉄生に貸したという事実のみ。
次に鉄生の命を狙って現れた殺し屋――イリアという水色の少女、および黒いコートを着た連中。城崎は全く知らず、会ったこともない。
カネと引き換えにあいつを殺してくれ――。そんなことは決してない。首を横に振って断言した。
鉄生は効率のためならば自分勝手で強引になることがある。
だが小学校の頃から彼を知り、そんな彼のダメな所に時に苛立ちや怒りを覚えることはあっても、殺してやるとまでは思っていない。
僕たちは友達だ――。誤解を解くため、信用回復のために何度も、何度もその主張を繰り返し、やがて鉄生もそんな彼の態度から、疑いの目を向けることは自然と無くなっていった。
ここで、二人の中で浮かび上がった一つの謎。
始まりのきっかけである一枚の手紙には、要求額は十三万円とハッキリ明記されている。
差出人の名前や住所は一切書かれていない。
代わりにこの正確な金額が『犯人は城崎』と語ってくれる。
しかし、この金額は城崎と鉄生しか知らない。相手が鉄生だからこそ、
一体誰があの手紙を書き、送ってきたのか?
そいつはその問題を何故かクリアし、鉄生を殺し屋に狙わせるだけでなく、無関係の人間を巻き込んだテロまで起こした。
真犯人として、二人の中で真っ先に浮かんだのが高谷と元濱。
しかしこの二人は一回目の貸し借りこそ目撃しているが、二回目はその場にはいなかった。
それに高校時代からの友達だ――こんな卑劣なことをするだろうかという疑問さえ浮かんだ。いずれも確たる証拠はない。
動機も心当たりがない。高校卒業してからも時々、仲間内でのカラオケやちょっとした飲み会とかで顔を合わせるぐらいの関係。
推理が平行線を辿った所で、真犯人が誰なのかを考えるのは互いにやめにした。
そして、今度は鉄生が訊く番だった。旅行から空白の二週間の全貌――。
ここ二週間、鉄生が連絡したにも関わらず、城崎と連絡が一切つかなかった理由――それは――。
「実はあの後、嫌なことがあって、鬱になってたんだ。ずっとここで寝てた。あれは――」
暗い表情を浮かべる城崎が詳しい内容に入っていこうと口を開いた――突如、玄関の方から強く荒々しく何度もドアが叩かれる音がする。
「な、なんだ!?」
脳裏に黒服やあの少女の姿が浮かんだ。間違いない。ここまで追ってきたんだ。そう確信した直後――、
「テツはそこの押入れの中に隠れていてくれ。僕が適当に言いくるめておくよ」
「お、おい、バカやめろ城崎!!」
手を伸ばして止めようとする――それでも城崎はドアを開けて玄関の方へと歩いていってしまう――が、玄関に近づいた瞬間ドアは開かれ――。
大勢の人影が次々と外から溢れ出てくる。それはこちらに助けを求める城崎をも簡単に飲み込み、玄関を通って鉄生の方にもなだれ込んでくる。
「警察だ!! 無駄な抵抗はやめろ!!」
黒い武装をした警官たちの中にいる、一人だけ帽子を被った中年の茶色いロングコート姿の刑事の男の声。
部屋内にその男の声が響き渡った時、一瞬、何のことか鉄生には全然分からなかった。城崎は犯人じゃない。なぜ?
あ、まさか――。気づいた時にはもう手遅れ。
「……城崎
「そ、そんなぁ!! 僕は何もやってない!!」
――嘘、だろう……?
無情にも、歩み寄ったその刑事によって、その証明と言わんばかりに城崎の両手首に手錠がはめられた――。
続けて城崎を部下に任せた刑事は警官をかき分けて鉄生に近づいてくる。
「まさかこんな所にいたとはな、金田鉄生。事情聴取のため署まで同行願おう」
既に囲まれ、逃げることもままない。ここで抵抗すれば公務執行妨害は当たり前。それに城崎が逮捕された以上、尚更放ってはおけない。
大人しく抵抗を諦める以外の選択肢は諦める以外になかった。任意同行を大人しく承諾すると、
「よし、素直だな。話はあっちでゆっくり聞こう。連れていけ」
関心する刑事と武装した警官たちによって外へと連れて行かれる。
城崎は先に飲み込まれるようにして一足先に、早々に容疑者として連行されていき見えなくなっていた。
いつの間にかマンション前を占領していた大量のパトカーのうち、一台に鉄生が乗せられると車両にアクセルが入る。
前方を走るパトカーの後を追って――恐らく城崎が乗せられたもので連れて行かれる場所はおよそ検討がついているが――けたたましいサイレン音とともにパトカーは渋谷の街から予想がつくその場所へと走り出した。
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