第22話 配信者と常連さん

 中村さんの配信はもちろんのこと、Actor Dancersのほかのメンバーの人の配信も楽しくなってきて、すっかりハマってしまった。


 美月が「いろんな人を配信に誘って沼に引きずり込む」と言っていた意味がようやくわかってきた。


 本当に、ここは沼だ。底なし沼だ。ついつい行って観てしまう。目の前に、ちょっと前には考えられなかったことが起きている。俳優さんたちとリアルタイムで話せて、声が聴けて、表情がドアップで観られるのだ。こんな夢のようなことがあるだろうか。あるのだ。これは現実だ。


 坂口さんの2回目の配信では、わたしが入室すると、手で鼻と口を押さえて「あっ、今日は口元隠してないから」とか言うのだ。


 だけど、坂口さんは、まあまあのイケメン俳優さんだった。何故Twitterのアイコンをあんな暗〜い顔のを使っているのか不思議だ。


 Actor Dancersのメンバーの全員の配信を観ているわけではない。やはり女性より男性、男性でも、直ぐにわたしのことを覚えてくれる人、コメントを読んでくれる人、配信時間のタイミングなどで、ずっと行くかどうかは決まってしまう。女性と男性は半々くらいいるのだけれど、女性の配信を観に行くのは沙織さんのだけにした。


 それにしても、美月は、メンバー全員の配信を観に行っているのだ。夜中の1時や2時に配信しているメンバーもいるのに、毎日行っている。


 昼間にも現れる。流石に仕事中で、ずっといることはないのだけれど、美月が現れると「美月おったんかい!」と坂口さんや、他の何人かがそう言うのを聞いた。美月が現れると、配信者もホッとしていることが伝わる。


 配信者が、配信を始めてから、直ぐにそのルームをフォローし、毎回行っているリスナーのことを、初期メンバーと言うらしい。


 配信者と初期メンバーの絆は固く、初見さんを、そのルームの仲間に入れること、フォロワーを増やすこと、ファンを増やすこと、それを配信者も初期メンバーである常連さんも求めていると言っているのだけれど、配信者と常連さんで話すことは楽しいのだろう。初見さんに一応挨拶はするけれど、大歓迎という気持ちはないに等しい気がする。


 美月が、毎日毎日、夜中にも行っていることが何故わかるのかというと、ルームの配信中のツイートをルーム内から、Twitterのあの鳥のマークを押すだけでできるのだ。美月の場合は、〇〇さん配信中、などとコメントが付いている。


 毎日誰かの配信が夜中にあるのに、美月は疲れないのだろうか?心配も、もちろんあるが、そこまでするのは何故なのだろうという疑問の方が強い。美月の推しメンも中村さんなのだ。中村さんの配信だけ毎週行っていれば満足ではないのか?


 美月の気持ちはわからないけれど、自分のことを一番メンバーに知ってて欲しい、その気持ちが強いのではないかと感じた。


 無理しているのだ。当たり前だ。ツイートで、寝不足とか頭が痛いとか言っている。


 それでも夜中に配信があると観に行っているのだ。


 美月には勝てない。美月がいる限り、わたしの存在は、Actor Dancersにとって、影の薄いものだと感じた。


 配信者にも疑問を持った。初見さんもコメントを、というテロップだけ出し、後は常連さんとずっと話している。これじゃ、新しい人が入れない雰囲気だ。

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