特別には足りない
@kamichu
はじまり
昔から、誰かの特別な人になりたかった。
親は出来のいい姉にかかりきりで、放置や虐待ほどではないけれど、私が100点を取ったり、たまたま何かでいい働きをしたとしても、どこかおざなりにされた。
友だちに対しても、色んな人に熱心に付き合っていき、悩みがあれば解決しようと張り切って、困っていれば助けようと身を切ってでも動く、けど、そんなことを繰り返していても、結局「都合のいい友だち」で止まってしまう。
誰かの一番に、誰かの特別に、なろうとすることは傲慢なんだろうかと、ふと考える。されど、今更生き方は変えられない。
ある日、先生から「屋上の倉庫にある物品を取ってきてくれ」と鍵を渡され、屋上へ向かった。
鍵は、壊されていた。
鍵穴がグチャグチャだとか、そんなレベルではなくて、ドアノブからブチ壊されていた、本来、こうなったならまっすぐ先生のところへ行って報告すべきなんだろうけど、何となく、好奇心からか怖いもの見たさか、ドアをそのまま開けてしまう。
軋んだドアの音、開けてく隙間から強い風と共にVOCALOIDの甲高い歌声が流れ込んでくる
その先に、彼女はいた。
その先人は、ドアの音に驚いて振り返って、「え、誰?」と、ドアノブをブチ壊した人間とは思えない日和ったような声を発して、無理に1人で染めたような微妙に斑な金髪を風になびかせていた。
二つ隣のクラスの『変わり者』
存在だけは、知っていたけど初めて言葉を交わす。
「ドアノブ、ぶっ壊したの?」
「あっ、うん、」
不良もいないようなこの学校の、立ち入り禁止の屋上に、私みたいな『普通の人』が来たのが余程驚いたのか、まだどこかしどろもどろに彼女は答える。
そんな姿の彼女を見て、私は感じたことの無い思いが溢れて止まらなかった。
「ドアノブ壊したの、黙っててあげるからさ」
「うん」
しどろもどろなその姿も、虚仮威しみたいなその金髪も
「今度から私とお昼食べようよ」
何故かどうして、堪らなく「可愛らしく」見えてきた。
これが、はじまり。
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