第2話 月読の花(後編)

◆◆◇◇



「そんな、馬鹿な……」

 部屋の中でファウナは震えていた。

 怯えるように。慄くように。何よりも、恐れるように。

 人間は己には抗しえない相手と出会った時、真っ先に抱く感情は恐れだ。それは生き物の本能。人間が少しばかり知恵をつけたところで、その理から逃れることはできない。

 むしろ、知恵を手に入れたことによって、人間はより多くの恐怖と対峙せざるを得なくなった。誰よりも明晰な頭脳を誇る国家賢人だからこそ、彼我の差を明確に理解できてしまう。無知であれば、鈍感であれば一生気づかないであろう隠された恐怖にさえも。

 愕然とするファウナの手に握られていたのは――

「さらに、大きくなったというのですか……」

 ――フローラの下着だった。

 数分前のことである。

 窓の隙間から漂ってくる雨の匂いを感じ取ったファウナは、書きかけの調査記録を放り出して庭先に干してある洗濯物を取り込みにかかった。ここで暮らすようになってからというもの、妙に所帯じみたファウナである。

 雨が降り出したと同時に取り込みが終わり、ほっと一息。一息ついでにそのまま衣装の選り分け作業を行っていると、その中に見覚えのない女物の下着が混じっているのを発見した。

 自身には心当たりがないので、消去法でフローラのものということになる。真新しい理由は簡単だ。つい最近、行政都市ヴェラスまで足を延ばしたので、その時に購入したのだろう。

 問題はその規格だった。ファウナが知るものよりも一回り大きい。

 しかも、黒だ。透け編みの装いが艶やかで、なんというか大人っぽい。同い年の女として何となく負けたような気がする。

「いったい、どれほどの戦力差が……」

 ごくり、と白い喉が鳴る。

 ファウナはきょろきょろと周囲を確認すると、手早く法衣を脱いだ。妖精と見紛おうほど細く、小さな裸身が露わとなる。一部を除いて肉付きのほとんどない華奢な肢体が放つのは色気ではなく、どこまでも透き通るような少女らしい無垢さだ。

 半裸になったファウナは恐る恐るとった手つきで下着を胸元に添えた。言うまでもなく、ぶかぶかだ。あるいはスカスカだ。彼女の胸の膨らみの頂点と下着の外枠の狭間には、決して埋まらぬ溝が無残にも広がっている。

「……あんた、なにやってんの?」

「うひゃあ!」

 びくり、と肩を震わせるファウナ。

「ふ、ふ、フローラ、おかえりなさい……ずいぶん早いお戻りで……」

 白く艶やかな背中を向けたまま、油の切れた歯車のようなぎこちなさで首だけを動かすファウナ。その顔にはひきつった笑みが張り付いている。

 青い瞳の先には、調査から戻ったばかりのフローラが呆れ顔で立っていた。幸いなことに、ミランの姿はない。こんな情けない姿を見られたら恥ずかしさで死んでしまう。九死に一生を得た気分だ。

「この私が一生懸命、あんたの仕事の手伝いをしてあげてるってのに、あんたは私の下着で遊んでたわけ?」

 じろり、と音の出そうな半眼。

「ち、違いますっ。雨が降りそうだったから洗濯物を取り込んで、畳んでいただけです……!」

「半裸で?」

「知的好奇心です! 仕方ないんです! 猫は立派に死にましたけど!」

 ファウナは涙目になりながら訴える。そんなに落ち込むならやらなきゃいいのにとフローラは思った。自他ともに認める自虐癖。

「まあ、別にいいけど。ところでファウナ、博物誌を貸してくれない?」

「え? ああ、はい。いいですけど……」

 博物誌とは古の大賢者が残した大平原の動植物の生態を記したものだ。もっともファウナが持っているのは写本ではあるが。

「どうぞ」

 ファウナは枕元に立てておいた博物誌を取ると、フローラに手渡した。

 ぱらぱらと頁をめくる。だいたいの位置を把握しているのか、すぐに目的の頁に辿り着いたようだ。

「あった! ふむふむ……ねえ、ファウナ。次の満月っていつかわかる?」

「確か今日だと思いますけど」

 ファウナは記憶を辿りながら伝えると、フローラの眉がぴくりと跳ねる。

「なんですって。こうしちゃいられないわ。――ミラン君、どこにいるの!?」

 叫びながらフローラは部屋を飛び出していった。

 ぽつんと一人残された半裸のファウナ。まるでさっきまで降っていた驟雨しゅううのような慌ただしさだった。



「ああ、生き返るな……」

 ミランは風呂に浸かっていた。

 濡れて帰ってくるだろうからと、ファウナが湯を沸かしておいてくれたのだ。

 心優しい少女である。フローラに爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいだった。

 家庭用の風呂など、辺境の猟師には似つかわしくない設備であったが、ミランの母が生前、無理を言って亡き父に作らせたらしい。

 家に風呂を持ちながらも、ミランはこれまで気が向いた時にしか使わなかった。理由は単純で、薪も水も、そして時間も大量に使うからだ。普段は行水で十分なのである。

 しかし、ファウナやフローラと生活を共にするようになってから使用頻度は格段に跳ね上がった。彼女たちのためというのもあるが、孤独を愛するミランが家の中にいながら手軽に一人になれる場所が風呂なのだ。

 彼女たちとの暮らしは気苦労の連続。風呂は、そんなミランを癒す最後の聖域といっても過言ではない。

「感謝するよ、父さん」

 今は亡き父親に礼を言う。

 ところが。

「ミラン君、あれの正体がわかったわ!」

 勢いよく戸の開き、聖域は無残にも瓦解した。

 ミランは恨みがましそうにフローラを見る。この女は裸を見せるのも躊躇わなければ、裸を見るのも躊躇わないのか。

「……なによ、その目」

 ミランの意図が判らず、怪訝そうに眉を顰める。

「いや、何でもない」

 正直、ちょっと諦めかけている自分がいた。

「さっきの樹だか、草だか分らんやつのことか。で、なんだったんだ?」

月読つくよみの花よ!」

 フローラにしては珍しい喜色満面の声。

 月読の花。何とも優雅な名前である。ミランからすれば、普通の樹木と変わらなかったが。

「ふうん。詳細が分かって良かったじゃないか」

 もういいだろ、早く出て行ってくれ――と目で訴えるが、フローラの話にはまだ続きがあった。

「そういうわけで、夜営をするわよ」

「は?」

「夜営よ、夜営。あれの前で。蕾があったでしょ。月読の花は、この季節の満月の夜に一度だけ開花するらしいの。月の満ち欠けを数えるように伸びるから月読って呼ばれているわけ。そして、ちょうど今夜は満月。開花を見るなら今夜しかない」

 要するに、と一度言葉を区切って。

「お花見よ」

 フローラはにっこり微笑んだ。



◆◆◆◇



 最初、ミランは反対した。

 夜の森の危険度は日中の比ではない。月や星の輝きが梢に遮られるので、地上とは比べ物にならないほど闇が深い上に、あえて昼間は息を潜めている大型の昆虫や肉食獣が目を覚ます。

 しかし、フローラは「どうしても、お願い」の一点張り。意固地な態度は彼女にしては珍しい。道理がわからない少女ではないはずなのに。

 最終的にミランが折れる結果となった。

 自分がついていれば何とかなるだろうし、月読の花――あの樹木に似た本草に、フローラが固執するほどの価値があるのかどうかも気にはなる。もっとも、一番の理由は「胸を凝視されたことをファウナに尾鰭をつけて言いふらす」と脅迫されたからだが。

 無論、冤罪である。胸を見たのはフローラの合意があってのこと。しかし、この手の反論は無意味だ。言い訳したところで「じゃあ、ミランさんは人を殺していいと言われれば殺すんですか。そうですかそうですか。つまりあなたはそんな人なんですね」と軽蔑した眼差しを向けられることだろう。残念ながら、男は女に口喧嘩では勝てないのである。

 決断すれば行動は速かった。三人はまだ明るいうちに移動を終えると、件の植物のそばで夜明かしの準備を始める。

 ミランは月読の花に影響がない距離で火を熾した。そして、蟲と獣を退ける香草を放り込んで燻す。これがあるのとないのでは危険度がまるで違う。

「ちょっと、ミラン君。煙たいわよ」

「諦めろ。安全を確保するにはこれが一番だ」

「わかっているわよ。言ってみただけ」

 ふん、と感じの悪い鼻息。ここに道中、どういうわけかフローラのご機嫌は斜めだった。あれだけ反対していた夜営を、ファウナの名前が出ただけで了承したことが面白くなかった……と気づけるほど、ミランは女の機微に聡くない。

 煙が十分に散漫したことを確認すると、三人は月読の花の前に腰を下ろした。

「フローラ、そろそろ教えてくれないか?」

「なにを?」

「花見をする意味だよ」

 夜の森に足を踏み入れるという危険を冒してまで花――まだ蕾だが――を見ることの意図を問いただす。

「月読の花は高地に生息する多年草よ。それがこんな場所に生えているのは不自然だから、あの渡り竜が種を運んできた可能性がある」

「昼間話していた海の外の世界のことか。あれからまだちょっとしか経ってないぞ。こんなに育つもんか?」

「別にあの子が来たのが今年初めてってわけじゃないでしょ。何回もあなたのところに通ってるから、ここで芽吹いて数年は経過しているでしょうね」

「というか、糞の上に座っているんですね、わたしたち……」

 賢いファウナは渡り竜がどうやって種子を運ぶのか想像できたようで、ちょっとげんなりする。

「数年も経てば糞も土も変わらないわよ」

「それで――」

 ミランは月読の花を指さす。

「お前が気にするくらいだ、こいつは何か害があったりするのか?」

「いいえ。大平原にも生息している種だから生態系的な汚染は皆無でしょう」

「じゃあ、たくさん実をつけるとか?」

「残念だけど、食用には向かないらしいわ。食べたことないけど」

 要領を得ない言い回しに、ミランは首を傾げる。

 フローラの目的。それは戦争、そして、その元凶たる貧困の根絶だ。そのために植物学科で救荒作物の研究をしている。

 だから、害があるわけでも、食糧になるわけでもない植物に対してそこまで入れ込む理由が、ミランには思い至らない。

「……本当に、ただの花見なのか?」

「そうよ。言ったじゃない」

 フローラがきっぱりと答えた。

「お前らしくないな」

 率直な意見だったが、フローラは気分を害した様子はない。

「確かに、この花そのものは私の目的には何一つ関与しないわ。まあ、言ってみれば趣味かしらね。花は好きよ。だって、見ているだけでどこか救われるような気がするじゃない?」

 現実的な彼女らしくない動機だ。ミランはフローラの考えていることがますますわからなかった。

「あ、見て下さい、二人とも! 咲きそうですよ!」

 ファウナが叫んだ、その時だ。

 風が吹き、梢が揺れた。枝葉の切れ間から清らかな月光が差し込む。

 淡い光を受けて蕾が一斉に開花を始めた。葉身と比べてあまりにも細やかな五枚の花弁がゆっくりと開いていく。薄暗い森の中でもはっきりと目に届くほどの白。月の雫が結晶したような、透き通った乳白色だ。

 三人は初めて目にする異界の花の芽吹きに圧倒され、知らず知らずのうちに息を呑んだ。

「綺麗だ」

「綺麗ですね」

「ええ。本当に綺麗ね」

 簡潔な表現。それ以外の気の利いた形容など出てこなかった。王国最高峰の頭脳を持った少女たちであっても。本当に美しいものを前にした時、人間は己の言語の不完全さを知る。この美しさは見たものにしか判らない。伝わらない。

 ちらり、とミランはフローラを横目に見た。いつもは我の強い真紅の輝きを放つ釣り目がちな双眸が柔和な光を湛えている。こんな顔もできるんだな、と少しだけ感心する。

「ん? なに?」

「いや、綺麗だなと思っただけさ」

「ええ。その名に恥じぬ優美さね」

 フローラはしっとりと微笑んだ。そうじゃないんだけどな、とミランは胸のうちで呟く。

「……花の美しさは人類を魅了してやまないわ。どんな国、どんな文化であろうと花を邪悪に扱うことはない。どうしてかしらね。数学的な美しさからかしら?」

「昆虫も魅了していますよ。そうでなければ彼らは蜜を吸いませんし、花粉だって運びませんからね」

「それもそうね。農耕の開発により人間は安定した食糧供給を実現したけど、同時に人間は米や麦といった穀物の奴隷になった、なんて揶揄する文献もあったわね。ふふ。ひょっとしたら、この世界の真の支配者は植物なのかもしれないわ」

 冗談めかしたように、フローラは笑った。

 されど、すぐにその表情は曇る。

「――綺麗なものはこんなにも心を和ませてくれる。それなのに、人間は……花を見ることさえ忘れて、欲望のまま、憎しみのままに……」

 争い。奪い。殺し合う。いつまでたっても。

 人類に課された三悪。飢餓、疫病、そして戦争。それは未だ解決の見通しが立たない。時代の最先端を行く国家賢人の力をもってしても。

 だからか、とミランは納得した。

 フローラは戦争を根絶したいと願う。戦争の原因の大部分は貧困からだが、仮に食糧事情が解決したとしても恨みや妬み、言語や思想、地位や身分――人間の中に自分ではない誰かと比べ合う心が存在する限り、諍いは途絶えることがない。そういった心の貧困を癒すことは、ある意味で、食糧問題を解決するより難しい。

 けれど、この一夜。月読の花を目の当たりにした三人は、不思議な一体感を獲得した。個体差の積み重ねが諍いを生み出すというのであれば、生まれも、性別も、考え方も違う三人は、まるでそれが当然であるかのように心を重ね合った。美しさは心を癒す特効薬なのだ。フローラはそれを示したかったのかもしれない。

「人間は剣ではなく、花を手に執るべきだった」

 ぽつり、とフローラが呟く。

「花を尊く感じることがこの世界に生きる全ての生命の共通だというのなら、それを忘れた人間はいつかになってしまう。そうなったら、きっと、この地で生きていくことはできないでしょうね」

 その言葉は戒めだ。

 戦争を憎悪するあまり、大切な友人の気持ちを慮れなかった――花を見ることを忘れてしまった自分自身に対するものだ。

 かつてのフローラであれば花見など非効率なことはしないだろう。やりたいことではなく、やるべきことだけを念頭に生きてきたのだから。

 まして、自身の目的に何の益ももたらさぬものであればなおのこと。フローラはミランの問いかけに『趣味』と答えた。そんな非効率な嗜好を思い出せたのは、他ならぬミランのおかげなのだ。

「なりませんよ」

 きっぱりとファウナは告げた。

「だって、ミランさんみたいな人がいますから。いつか、我々が剣を捨てて、花を手に執ることができる日だって、きっと来ますよ」

「ええ、そうね。きっとそう」

 ――文明人もきっとあなたのように涼やかに生きていける。花の美しさを思い出せる今ならば。

 言葉にせず、フローラは胸の中で唱えた。祈るように。願うように。

「おいおい、どうしてそこで俺が出てくるんだよ。俺は――」

「「そんな大したことはしてないぞ、でしょ?」」

 先を言われて困惑するミラン。若き国家賢人はお互いに顔を見合わせると、してやったりと笑みを浮かべた。

 ――月読の花。

 一夜だけの奇跡は、その名に違うことなく、夜明けが来るとともに役目を終えて静かに散っていった。



◆◆◆◆



「さてと。ミラン君、ちょっと短刀貸してくれる?」

 フローラがミランに向けて手を差し出す。

「いいけど、どうするんだ?」

「いいから」

 ミランが首を傾げながらも革帯の鞘から無骨な短刀を抜くと、持ち手をフローラに向けて差し出した。

「ありがとう」

 丁寧に短刀を受け取ったフローラは、すたすたと月読の花の傍まで歩み寄ると――容赦なく根元を斬りつけた。

 ミランは顎が外れるかと思った。

「え、ちょ、おま……お前、なにやってんの?」

「月読の花は食用には適さないけど、根っこの部分はいい薬の材料になるって博物誌に書いてあったのよ。検証しようと思って」

 そう言いながら、ざくざくと根元を寸断していく。そこまで傷つけては、この草はもう枯れるしかないだろう。

「お前、もしかして最初からそれが目当てだったのか……」

「そうだけど?」

 いけしゃあしゃあとはこのことか。ぶちぶちと根っこを引きちぎるフローラに、ミランは信じられないものを見たような顔になる。

「人間を真に貧困から救うには、物質的な豊かさじゃなくて精神的な豊かさが必要だって話じゃなかったのか……?」

「何言っているの。物質的な豊かさ、よ」

 わかってないわね、とフローラ。

「もちろん鑑賞も目的だったわよ。でもね、綺麗なものを見るだけでお腹が膨らむなら苦労はしないわよ。心が満たされていても、お腹が空いたり、病気になったら死んじゃうわ。それはそれ、これはこれよ」

 言いたいことは理解できるが、ミランとしては複雑な気持ちになる。やっぱり、フローラは現実的な女だ。

「お前の友達、あれでいいのか?」

「はは……」

 乾いた笑み。さすがのファウナも困り顔だ。

「でも、もし書かれてあることが本当ならすごいわよ。抗炎、強壮、整腸、不眠、血行改善。なんでもござれ。言ってみれば万能薬みたいなものらしいわ」

「へえ、それはすごいですね」

「あ、他にもなんていうのもあったかしら」

 その言葉を聞いて、ぎらり、とファウナの碧眼に不穏な光が宿る。

「――探しましょう。あの仔の渡りは複数回です。芽生えたのがこれ一本だけとは限りません。どこかに群生している可能性もあります。十分な量を確保し、学院に持ち帰って実用化を目指しましょう」

「どうかしら。量産は難しいと思うわよ。これだけ大きいんですもの、農園を作るなら広い土地が必要になるし、そんな余剰があるなら米植えろって話になると思うけど」

「そこを何とかするのが植物学科の腕の見せ所じゃないですか。実用化できれば、胸囲格差をなくすことができます。多くの女子に精神的な平穏をもたらすことも夢物語じゃありません。戦争はなくなるんですよ……!」

 握りこぶしで語るファウナに、心の底からどうでもよさそうなフローラ。

「どんな戦争よ。私がなくしたいのはそんな低次元な争いじゃないんだけど」

「フローラには持たざる者の気持ちがわからないんですよぅ! なんですか、これ見よがしに下着なんか新調しちゃって! 当てつけですか!」

「だって、窮屈なんだもの。しょうがないでしょ。だいたいね、そこまでいいもんじゃないわよ。肩は凝るわ、足元は見え難いわ、ちょっと大きくなっただけで買い換えないといけないわ。非効率極まりない。ファウナが羨ましいわよ。体型が変わらないから耐用年数ぎりぎりまで着回せるじゃない」

「それを言ったら戦争ですよ!?」

 月読の花の残骸の前で、二人はぎゃーぎゃー騒ぎ出す。

 ――やはり人間は世界の敵になるかもしれない。

 徐々に明るくなっていく東の空を眺めながら、ミランは溜め息を吐いた。



/了

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