第2話 連れ去られた理由

 謎の3人組に攫われた私は、彼らが住む屋敷へと連れて行かれる事となる。

そうして、一日が経過したのである。



「じゃあ、まずは自己紹介かな?僕は、コディー・オレイレカン。このオレイレカン家の三男で末っ子。“人間の年齢”でいくと、15歳くらいかな?よろしくね」

屋敷内にある大広間に集まった3人の内、淡い茶色の髪を持つ青年より自己紹介を始める。

私が眠りについていた結婚式場のチャペルにて、背後で行く手を阻んだ黒髪・紅い瞳の青年が次男のバーゼル。私を気絶させ、この屋敷に連れてきた金髪碧眼の青年が、長男のイマドという名前らしい。

「あんたの名前は?」

「えっ…」

彼らに自己紹介の後、バーゼルに問いかけられた途端、私は目を丸くする。

 何か、テレビの雑音みたいなものが聴こえたような…?

私は、この黒髪の青年に声をかけられたことで、言葉では言い表せないような感覚を味わっていた。

「私は、メル・アイヴィー。あの…貴方達は一体…?」

私は自分の名前を名乗るが、彼らに対しては訊きたい事が山ほどある。

「単刀直入に言うと…僕らは吸血鬼ヴァンパイアで、君はイマド兄さんの野望を叶えるための鍵だから、人間界より連れ去ったって所かな」

「え…?」

私の問いかけに対して、コディーが答える。

「コディーの台詞ことばは、嘘じゃねぇよ。俺らが住むこの魔界には、“魔王”という魔族達を治める王がいた。その王が100年前にお前を保護していた後から、様々な事が起きた。しかし、奴は死を迎える2年前にあんたを何処かに封印した。おそらくは、魔王の座を狙う輩からあんたを遠ざけるためだったんだろうが…」

すると、今度はバーゼルが語る。

「我らオレイレカン家の情報網を駆使し、貴様が封印されている結婚式場ばしょを見つけた訳だが…最初はじめは、強力な結界のせいで中に入れなかった」

「でも…。昨夜、貴方達は普通に入ってきていた…ですよね…?」

長男のイマドが語ると、私は確認するように問いかける。

私の問いかけを聞いたイマドは、黙ったまま首を縦に頷く。

「奴の死亡によって結界が薄れ、場所を特定できたのだ。弱まってしまえば、俺の魔力でも容易に結界を解ける」

「そう……ですか」

イマドの説明で、彼らが自分の前に現れるまでの経緯を悟る。

 このイマドっていう男性ひと…。少し怖いな…

私は、話を聞く中でそんな事を考えていた。


「そういえば、あんた…。名前以外の事は、何か覚えているか?」

「え……」

不意にバーゼルより問いかけられ、私は固まる。

 自分の名前…好きな食べ物……。あとは…

自分が今思い出せることを心の中で呟くが、それ以上の内容ことが出てこない事に気が付く。

 これも…一体、いつから身に着けていた…?

私は、首につけた黒いチョーカーの装飾部分を触れながら、考える。しかし、その答えが出てくる事はなかった。

「自分の名前と好きな物…くらいしか、覚えてないです」

「!!」

私の台詞ことばを聞いた途端、青年達の表情が変わる。

「……やっぱり、伝承の通りなんだね。“持ち主”が変わると、記憶が…」

視線を上げると、コディーが腕を組みながら呟いていた。

「君は、手に入れた者を“大いなる力”がある場所へと導く“鍵”なんだよ。でも、手に入れれば良いってものではないんだ」

コディーは、語りながらクスッと笑う。

「“鍵の覚醒”に必要なのは、“血”と“記憶”だと伝えられている。そこから、俺達兄弟は、お前自身が記憶を失っていると推測したのだ」

「…っ…!!」

後ろから声が聴こえた途端、私は鳥肌が立つ。

背後にいたイマドの瞳が、碧から血のように紅い色をしていた。

「痛っ…!!」

イマドに左腕を掴まれ、引き寄せられる。

腕を掴む力が強いせいか、私は痛みで顔を歪める。振りほどきたくても、振りほどく事ができない。

「味見も兼ねて…だ。伝承にある“血”が何を意味するか、見させてもらおうか」

そう告げるイマドの声が、耳元に響いていた。

 吸血鬼ヴァンパイア…!!

彼の口から犬のように尖った歯が見えた途端、私は恐怖した。


鈍い音と共に、首筋から血が滴り落ちる。

首筋から感じる熱に対し、火傷以上に熱いと感じた。一刻も早く、相手から逃げ出したかったが―――――――――――――――私の脳裏では、映像のようなものが映っていた。

それが彼らの狙い通りかは定かではないが、“血”と“記憶”が関連づいている事が判明するのであった。

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