宝石の翼 セリエルの空

藤あさや

第1話 英国の奇蹟

 英国国教会が現代に認めるただひとつの奇蹟がある。

 エーテル機関。

 熱機関や電気機関と同じ動力装置を意味する“機関エンジン”のことだ。

 エーテル機関は微弱な電気信号のみで動作し、風を操る。

 エネルギー保存則は成り立たない。どんな種類の燃料も必要とせず、ある種の電気信号を注ぎ込むだけで得られる強力な出力は明らかに熱力学の第二法則に反していた。風を操るという特性から航空機に載せられ、片手に載る蓄電池ひとつで五十時間以上の飛行が可能となった。

 エーテル機関は科学者と聖職者による審理を経、国王の名において奇蹟の認定を受け教会が管理している。操ることができるのは声変わり前で“臍玉さいぎょく”を持つわずかな数の少年たちのみ。

 彼らは英国の奇蹟と呼ばれていた。

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