ポッキーゲームがしたいなぁ

またたび

ポッキーゲームがしたいなぁ

 私は実は、幼馴染のたかしに恋してる。冴えないやつだが、長い間一緒にいた私には分かるのだ、たかしの純粋さ、優しさが! だから今日はポッキーゲームとやらをたかしに申し込んでみようと思う。一世一代の賭け、というぐらいの気分だ。しかし他のクラスメイトに見られるのは恥ずかしいので、ちょっと朝早く学校に来た。


 ……あの後ろ姿はたかしだ。勇気を振り絞って話しかけてみる。


「おっはよー!! たかし!」


「へっ?」


「ってあんた誰よ⁉︎」


「おいどんは田舎から来たんだっぺ、円野と言うんだ。ほな、よろしくだ」


「って何弁よ⁉︎ 色々混ざってない⁉︎」


「……ごめん、田舎者アピールしたくてつい」


「……標準語喋れるじゃない。それよりたかしってやつ知らない?」


「……知らないでがんす」


「……それはもはや方言じゃないよ」


 諦めて昼休みにまた、たかしに話しかけることに決めた。周りの目がきついが、致し方なし。それくらいの覚悟はある、私はたかしとポッキーゲームがしたいのだ!


 * *


 ……あの後ろ姿はたかしだ。勇気を振り絞って話しかけてみる。


「ねぇ、たかし! たかしってさ、ポッキーゲームって知って……」


「むむ? なんですかね、君は! 私は今受験勉強に忙しいのですけど!!」


「ってあんた誰よ⁉︎」


「私ですか? 私は日野と言います。それよりもう少し気を使ってくれないかな!! 私は受験生なのだよ、受験生!!」


「……ここ二年生の教室ですけど」


「えっ?」


「……」


「……そうなの?」


「……そうだよ」


 諦めて放課後にまた、たかしに話しかけることに決めた。今度の今度こそ、ポッキーゲームをしてやるんだ!! 私……無事に放課後まで過ごせたら、たかしとポッキーゲームするんだ。


 * *


 ……あの後ろ姿はたかしだ。勇気を振り絞って話しかけてみる。


「ねえ、たかし!」


「……ん? ああ、お前か」


 よ、良かった! たかしだ!! ようやくたかしと喋れたよ!!


「何の用?」


「……今日なんの日か知ってる?」


「今日? えっ、お前の誕生日とかだっけ?」


「違うよ!! 今日はポッキーの日だよ!」


「……ああ、そういえば今日だったか」


「だからさ、たかし?」


「ん?」


「……私とポッキーゲームしない?」


「えっ」


 たかしは顔を赤くした。可愛いものである!


「……いや?」


「……別にいやじゃないが、で、でも」


「ほら、文句言わない」


 私は無理矢理たかしの口に一本のポッキーを詰めた。


「じゃあ動かないでね?」


 ドキドキ


 たかしもなかなかに緊張してる様子だが、私だって緊張してる。どうしてもポッキーゲームをたかしとしたいからって、こんな積極的な発言をしてしまうとは、恥ずかしい!!


「……」


 無言のまま、私は徐々にポッキーを食べていく、たかしもボチボチとまるでハムスターのように少しずつ少しずつ食べていってる。恥ずかしすぎて、目を閉じていた私だが、ふとたかしの表情が見たくて目を開いた。


「ってあんた誰よ⁉︎」


 思わずビンタ!!


「ぼ、僕は怪しいものではないです! ただ、女子とポッキーゲームがしたくて未練タラタラなだけです!!」


「十分怪しいわ!! この変態!!」


「ぐっ。た、たとえ変態だったとしても、それは変態と言う名の紳士で……」


「あっ?」


「ひっっ!! すいません、すいません、すぐ消えます!!」


 その変態男は教室を去っていった。それにしてもたかしはどこに? 教室のどこにもいなかった。ポッキーゲームしてたはずなのに……ふとつらくなって屋上へ向かった。


 * *


 風が心地いい……ってあの後ろ姿はたかし⁉︎ 危ない、あんなところに立ってたら落ちちゃうじゃない!!


「たかし! 何してるのよ!!」


「……ああ、またお前か」


 振り向いたたかしは涙を目に溜めていた。


「ど、どうしたの? たかし」


「……俺さ、昔から幽霊が見える体質でさ」


「えっ?」


 あまりに唐突すぎて困惑した。えっ、幽霊? 一体なんの関係が……


「でもその体質、どんどん悪化していったんだよ。今じゃ幽霊を憑依しやすい体になってしまった。俺の意思関係なく、突然幽霊が体の中に入ってくるんだ。そして体を乗っ取られる、姿もその間はその幽霊の姿になってしまう」


「そ、それって……」


 もしかして今日喋った人たちって……


「俺はな、怖くて怖くて、もういやなんだよ。自分が自分じゃなくなるのがな。自分でも気づかぬうちに別人に急になる。正直言って、俺はお前のことが好きだったよ」


「えっ」


「だからポッキーゲームをしようと言ってくれたとき、かなりテンションが上がったさ。でも、気づけば俺は教室の外。それ以降の記憶もない。ああ、また俺は別の誰かに乗っ取られたのだな……って思ったよ」


「そ、そんな、そんなことって!!」


「だからもう俺は死ぬ。俺が俺でなくなる前に……最後にせめてポッキーゲーム、おまえとしたかったな。じゃあな」


「ま、待ってよ! た、たかし!!」


 本気だと思った。たかしは歩む足に躊躇いがなかった。お願い、たかし死なないで!! 急いで走ったが間に合いそうにもない……そ、そんな。


「……ぐっ」


 たかしは歩む足を一瞬止めた。その瞬間に私は慌ててたかしを掴んで、とりあえず内側へと引っ張った。


「たかしのバカ!! 私、私、たかしがいなくなったら……」


「まあ元気を出すでがんすよ!!」


「ってあんた誰よ⁉︎」


「円野でがんす!!」


 思わずビンタ!! ……ふと目を開けてみると、そこにはたかしの姿があった。


「どうやらまた幽霊に憑依されたらしいな……おかげで死ねなかった」


「たかし……死ぬなんて言わないでよ」


「……でも、俺は」


「私はどんなたかしでも好きよ!! それにその体質だって治せるかもしれないじゃない! まだ何もしてないのに……私だって、たかしともっと一緒にいたいのに、簡単に生きることを諦めないでよ!!」


「……」


「デートだって、ポッキーゲームだって、しよう、たかし!! これから楽しいことだっていっぱいあるよ?」


「……そうだよな、その通りだ」


「そうよ、たかし!! だからお願いだから死ぬなんて二度と言わないでよ!!」


「……ああ、分かったよ。ありがとな」


「……うん、どういたしましてだよ、たかし」


「……一つお願いしていいか?」


「もちろん!」


「俺と改めて、ポッキーゲームをしてくれないか?」


「……うん」


 二人向き合っていた。風の吹く屋上で二人っきり。ポッキーを口の中に入れる。


 ドキドキ


 二人の鼓動が鳴り響く。私は徐々にポッキーを食べていった。たかしの方は、あいかわらずハムスターのようにちまちまと食べている。恥ずかしすぎて、目を閉じていた私だが、ふとたかしの表情が見たくて目を開いた。


「ってあんた誰よ⁉︎」


 思わずビンタ!!


「ぼ、僕は怪しいものではないです! ただ、女子とポッキーゲームがしたくて未練タラタラなだけです!!」


「またおまえかよ!! さっさと成仏しろや、変態!!」


 今度は意図的にビンタ!!


 〜おわり〜

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