第20話 志津川さんの親友 ④ 悲劇

「…ヘヘッ、久しぶりに飲んだなぁ!志津川、良い気分だぜ今夜は…」

「頑健屈強な君の酒に付き合うのは大変だよ、武義!…」

 2人は笑いながら駅に向かって歩きました。

 その途中、線路を跨ぐ歩道橋があり、階段を上がる時に志津川さんが尿意を催しました。

「すまん武義、…小便したくなった!駅まで持ちそうもない !! …僕はもう堂々とここから放尿することにした!…電車にぶっかけてやる !! 」

 酒に酔った勢いで志津川さんはそう宣言すると、歩道橋の上から下の線路に向けてサッサと放尿を開始しました。

「よし、じゃあ俺も仲良く連れションと行くか!」

 武義さんもそう言って、2人並んで放水したのでした。

「ウハハ!気持ち良いなぁ、…チクショー、電車通らねぇかな !? 」

 武義さんがそう言って笑った瞬間、

「バシッ !! 」

 と鋭い音がしました。

 志津川さんは一瞬、青白いスパークの火花が飛んだのを見たような気がしましたが、それが下の架線からだったか武義さんの身体からだったかハッキリとは分かりませんでした。

「た…武義っ !! 」

 ハッ!と顔を向けると、横にはすでに武義さんが倒れていました。

「武義っ !! 武義っ !! 」

 ズボンのチャックを閉めるのも忘れて志津川さんはすぐに武義さんの身体を揺さぶり叫びましたが、すでに意識不明で全く生気が感じられぬ状態だったのです。

(大変だっ !! )

 志津川さんは歩道橋を駆け下り、近くの電話ボックスから 119 番通報して救急車を呼びましたが、車が到着した時にはもはや心肺停止しており、要するに武義さんは小便が架線にかかった瞬間に感電してほとんど即死の状態だったのです。


「…私があの時歩道橋から小便なんかしなければ奴は死ぬことも無かったんだ…!くそっ、何であの時…」

 志津川さんは僕に再度そう言って悔やみました。

「…私は情けないことに奴の葬儀に行けなかったんだ…!苦しくて…行くのが怖かったんだよ…」

 僕は何と応えてよいか分からず困惑していましたが、それでも何か言って上げるべきなんだろうなと思い、慰めにもならぬことを言いました。

「…志津川さん、自分をそんなに責めちゃダメですよ ! …逆にあるいは志津川さんが倒れる運命もあった訳だし、不幸な天運の流れだったんですよ、きっと」

「…そう思って割り切ろうとしてるんだけど…まだ駄目なんだよ!…あんな頑丈な奴があっけなく一瞬で死んで、身体が丈夫でもない私がこうしてズルズル生きているのが…天運だなんて、そんなの…全く」

「…辛い話をさせてしまってすみませんでした…」

 僕がそう言うと、志津川さんは真剣な表情で言いました。

「森緒君!…どんな場合であっても歩道橋から線路に小便はするなよ!」

「えっ !? …はい!」

「命にかかわるからな!」

「肝に銘じます!」

「…それから、友達は大切にするんだ!」

「分かりました…!」

 僕がそう応えると、志津川さんは徐々に落ち着きを取り戻し、満足げに頷いてベッドに横になりました。


 …そして翌日の回診の時、先生からOKが出て志津川さんは退院することになりました。

「…森緒君、元気でな!…君はいいヤツだからきっと友達も出来るよ!…じゃあな !! 」

 …最後に部屋を去る時、志津川さんは僕にそう言って静かに出て行ったのでした…。



 志津川さんの親友 完


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