中継地

 買おうか買うまいか。それが問題だった。


「まぁだ悩んでるの?」

 なんて、哲学的に考えてみても、財布は果てしなく軽い訳で。

 だけど、それは生死に勝るとも劣らない重大な問題でもある。

「とりあえず、先に出てるよ?」

 さっきから頑張って聞こえない振りをしているのが悪かったのだろうか。

 残されたのは、私と、そして目の前のシュークリーム。と、よけいな奴が一人。

「で、結局買うの?買わないの?」

 聞こえないふり。聞こえないふり。

 とりあえずは、目の前の100円の値札の方が重要だ。

「これも100円玉で買える幸せっていうのかな?」

「それを言うなら、100円玉で買えるぬくもり」

 と、思わず口走ってしまってから、ニヤリと笑う奴と目があった。くそぅ。私が尾崎豊おざきゆたか好きだと知っていたな……。

「まあ、今は消費税も入るけどね」

 そういや、そうだった。で、また悩む。

「考えすぎ」

 そして、また奴に突っ込まれる。


 結局。

 コンビニから出てきた私の手には、小さなビニール袋がぶら下がっていた。

 その袋が大した役目を果たす間もなく、さっそく中身を取り出す。

 先に外へ出ていた彼女が近寄って来た。

「で、結局買ったんだね」

「まあ、食欲にはかなわなかったみたいだな」

 こっちの口がふさがっているのを良いことに、奴め、好き勝手言っている。そんな奴の言動を信じたかどうかは分らないけど、彼女は小さく笑って言った。

「じゃあ、そろそろ行こうか?」

 って、私、まだシュークリーム食べてるのに。

「そうだね」

 奴までそう言ったので、私はシュークリームをほおばったまま、思いっきり睨んでやった。

「もちろん、ちゃんと食べ終わってからだけどね」

 視線でお互いを牽制している私と奴を見て、彼女がそう付け加える。

 そうこうしている内に、シュークリームも残り僅か。最後の一口を、大事に大事に味わう。コクン、と喉が動いて、とうとう100円(と消費税)はお腹の中に消えていった。

「じゃあ、食べ終わったみたいだし、そろそろ行こうか?」

「うん」

 彼女の言葉にそう答える。


 私と彼女と奴の自転車が、深夜の道を併走する。

 次の中継地まではあと1キロ。まだまだ、夜は始まったばかりなのだ。





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