往生際で君は嗤う。

東雲 彼方

第1話 砂時計

 サー……。只々砂の落ちる音が部屋に響く。部屋には簡素なパイプベッドが一つあるだけで、他には何もない。只白いだけの部屋。壁も天井も床もカーテンも布団も、何から何まで白い。わたくしは今、白という色に圧迫されているのです。

 さて、この砂が全て落ちた時、私は死にます。死というものからは大変逃げたく思いましたが、私も人間。とうとう其の時が近付いて参りました。私が横たわるこのベッドの他に何も無いのですから、砂の落ちる音は響きます。そうしてこの音は否応無しに、そして確実に、私に死への一歩を感じさせるのでした。

 私の腕はもう白く折れてしまいそうな、か細い枝の様でした。持病が悪化して外に出ることも叶わぬ身と成り果てました。酷く哀れな姿形なのだろうと私自身思います。もう起き上がって姿見に身体を映すことも出来やしないけれども。

 これから私が紡ぐのは往生際で感じた事。私の独白なのでしょう。私という存在が生きたという証を少しだけ残しておきたいのです。今まで数々の罪を重ねてきました。しかし、どうしてもこの世界に縋りたいと思ってしまうのです。罪滅ぼしならば死後の世界で幾らでもやりましょう。だからどうか、私がこの駄文を綴ることを許してください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る