第4部 「覚醒のズメ子編」

19話 悪夢の群像劇の始まりよー




「マナト、お前例の”祠“とやらについて知ってるのか?」


桐生がマナトに訊ねた。マナトは首を縦に振って話を続ける。


「確か学園の中庭に百葉箱があったろ?」


「ひゃくようばこ?」


サファイが首をかしげる。


「気象観測のために、温度計とか湿度計が設置されている白塗りの四角い箱よ。だいたいどこの学校にも一基は設置してあるわね。」


江原岬がサファイに説明する。


「・・ふーん。でも、なんでその百葉箱と祠が関係あるの?」


「違うんだよサファイ。百葉箱と祠が関係あるわけじゃなくて、 『その百葉箱自体が祠なんだ 』 」


「なっ」


サファイ、桐生、江原の3人が同時に驚いた顔をする。


「なぁマナト。その情報は確実なのか?」


桐生が疑いの視線をマナトに向ける。


「間違いない。これを見ろ!」


マナトが愛用のノートパソコンを開き、ディスプレイのある一点を指差しながら桐生に見せつける。


「こ、これは・・!? 」


桐生が見たものは、『ゴーグルマップ』の、聖川東学園の中庭を上空から見た地図だった。


すると、江原が誰よりも早く何かを発見した。


「何かここに白っぽいドットのようなものが見えるわね。ぼやけててよく見えないわ。」



「ええ、よく気付きましたね。これをさらに拡大して補正をかけると・・」



「ああ、この学園の百葉箱だ。」


「桐生、アレまだあるか?」


「ん?あぁ」


ゴソゴソ


桐生はズボンのポケットからスマホを取り出し、写真アプリの画像ファイルを開く。


「えーと・・・あったこれだ!」


マナトのパソコンのディスプレイと桐生のスマホの画面を並べてみると、あることが一目で分かる。


「これは?」


桐生のスマホの画面をじっと見つめる江原。


「ホラ、去年図書館に行った時に“ 妖怪大全集” を借りたって言ったろ?あの本のページとページの間に一枚のボロい写真が挟まっててな。念のためスマホでスクリーンショットしといておいたんだ。」



その写真とは、 現在の聖川東学園が位置するとされる江戸時代 “曾樫藩” 某所にある祠(ほこら)の画像だった。ズメ子の呪いの発生源である『呪怨のおもて』が奉られてある祠だ。


「もともとこの辺りは江戸時代から田舎で建物も少なく、周りは畑や田んぼばかりだったんだ。そんな中で一際目立つ物体が現在の学園の中庭と同じ座標に存在している。その物体ってのが・・」


「 学園の百葉箱・・いや、『呪怨のおもて』が入った祠ってことか」



「でも、どうして地元の人間達はそんな恐ろしいものをわざわざ祠なんかに残しておいたのかしら?棄ててしまえば良いのに」


江原が言った。


「それは恐らく当時の人々の宗教観とかある種の信仰だろう。呪いの源であるお面を見えないところに封印しておけば呪いが治まるとでも思っていたんだろーな」


桐生が答えた。


「・・でも結果的に効果は無かった」


マナトが続いて述べた。


「その通りだ。現にズメ子はこうして学園の中を彷徨っている。」



「つまりだ。呪いの源を祠に安置するだけじゃ効果ないんだったら、いっそのこと『呪怨のおもて』を祠ごと破壊してしまえばいいんだ!」


「あ、なーるほどー」


江原が腕を組んでうんうんと頷いている。


「つまり、俺達の最終目標は例の祠・・もとい中庭の百葉箱をぶっ壊す事だ。おそらくズメ子と『呪怨のおもて』はリンクしているはずだ。そいつが近くにあったからズメ子が発生してしまったんだ。だから、百葉箱の破壊さえ達成できれば呪いは止まる!!」



桐生がこれからの動向・意向を総括する。


「ちょっといいかな」


サファイがさりげなく手をあげた。


「なんだ?」


「えーっと、その百葉箱(ほこら)ってのは中庭・・・つまり学園の『外』にあるんでしょ?僕たちは今、その学園から出られない状況なんだよね」


「ああ。無論、言われずとも分かってるさ。だから今外に出る方法を考えてる・・」




『 ブボボボボボボボボボボ!!ジョボボボボボボ!!! チリンチリンチリンチリン・・・・ンゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!』



その時、桐生のケータイから大音量で着信音が流れた。


「おい桐生、お前いい加減ケータイの着信音の設定変えろよ!!びっくりするわ」


「ああ、すまんすまん・・・おっ、コースケからだ!」



『・・ザザザッ・・しもし・・もしもし桐生か!?良かった、やっと電波が繋がったみたいだ!!』


電話の奥からコウスケの荒い呼吸が混じった声が聞こえる。


「コウスケ! そっちは無事かっ!?」



『ああ、なんとか。それより桐生、落ち着いて聞いてくれ。この学園の中に能面を被った化け物がいる!俺はそいつにずっと追われていてな。今二階の教室の掃除ロッカーの中に隠れてその化け物を撒いたところだ。』



「やっぱり既に遭遇しちまってたか・・」


『やっぱりってどう言うことだよ?まさか桐生、あの化け物を知ってるのか?』


コウスケの呼吸がさらに早くなる。


「アイツは “ズメ子” と呼ばれる、古くからこの地域に土着している呪いの化け物だ。間違ってもアイツに触れられてはいけない。触れられちまったら最後、お前まで理性を失ってズメ子と化してしまうからな」



『わ、分かった! 桐生達はまだ四階にいるのか?』


「ああ。今は四階のマルチメディア室の中に立て籠もっている。ズメ子に発見されるのも時間の問題だな。お前こそ今どこにいるんだ?」


『二階だ』


「なら早く俺達のいる四階まで合流しろや!」



『そ、それが・・・』



「ん?どうした?」



『三階に続く階段をいくら昇っても “三階に辿り着けねぇ “ 。どうやら、この学校の空間までもが狂ってしまってるみたいなんだ・・』




コウスケの絶望混じりの声が電話越しから聞こえた。
























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