第3部 「黒崎寛也編」
12話 ヒトならざる力
* * *
『独自に開発した手刀技で敵を切り裂く。これこそミスター祠堂のチカラよ。』
酒井の説明を聞いても、キリュウは未だに祠堂を瞠目していた。
『・・お前ら、このまま一気に最上階まで行くぞ。』
祠堂ら三人はエレベーターに乗り込みビルの最上階へと赴く。
チーン・・
『ついたな』
三階からエレベーターに乗る事約三十秒。
“マグナム”本部の最上階に広がるのは、薄暗く、所々に蜘蛛の巣が張ってある殺風景な景色だった。祠堂のアジトと大差ないが、唯一違いを挙げるとしたら、その広さだろう。
そして、奥でゆらりと蠢く一人の影があった。その影はのしりのしりと祠堂達のいる場所に近付いていく。
『俺たち“マグナム”の本部に堂々と侵入するたぁ、大した度胸じゃねぇかにいちゃん。』
祠堂達を歓迎したのは男の低い声だった。
祠堂の目の前に現れたのはスキンヘッドで全身ムキムキの、肌黒の巨漢だった。
『テメェがマグナムのボスだな?“ドン・タコス”。』
祠堂が尋ねる。
『ほぉ〜ん。俺の事を知っているたぁ流石の情報網だなぁ。んで、なんだ?まさかテメェらたったの三人だけで俺に挑む気か?え?』
『テメーこそ“たった一人で足りんのか”?俺様相手に』
これが祠堂の、挑発を挑発で返すスタイルだ。
『カッカッカ。まだ高校生ぐらいの歳にしちゃあ肝が座ってんじゃねーか。俺たち異能者はよぉ、神に選ばれた特別な存在なんだよ。
だからもっと自由に生きる権利があんだ。
だから俺たちゃ国家や法などには決して屈しねぇ。お前らも異能者なんだから分かるだろ。なぁ、同胞!!』
異能者だけが自由に暮らせる世の中を作る。ドン・タコスの言う通り、これこそが“マグナム”の行動目的だった。
『同胞か・・。ハッ、アタマ沸いてんのかテメェ?テメェみたいに異能を犯罪なんぞに使ったり、罪もない子供達を連行して無理矢理異能を植えつけたりする実験とかしてっから社会的マイノリティである俺ら異能者は公害扱いされて国家や民衆から疎まれんだよ。このゴミクズが。』
『だ、だまれぇええええ!!』
どずどすどすどすどすどす!!!!
その巨体を怒りに任せて動かすドン・タコス。怒りの矛先は当然、自分のプライドをズタズタに傷付けた祠堂である。
『これだから脳筋は・・』
ズドンッッ
祠堂はやれやれと一度溜息をつき、力強く「地面に対して斜めに」手刀を叩きつけた。この一撃で前方三方向に地を這う衝撃波が作り出され、ドン・タコスを襲う。
しかしドン・タコスは揺るがなかった。
『甘い甘い!』
ズドドドドドドドッ!!!
祠堂の衝撃波は見事全部タコスに命中した。
なんと、タコスは衝撃波を回避せず、全身で残らず受け止めたのだ。
『何ッ』
流石の祠堂も驚きを隠せない。
『カッカッカ!どうだぁ?“敵の攻撃を受ければ受けるほど筋肉量が増える”。それが俺の能力だ!!攻撃されれば攻撃されるほど俺は強くなれるんだゼェ?』
『はん、マジ気持ち悪りぃ能力だな』
ペッと、唾を吐き捨てる祠堂。
『気持ち悪い・・・か。やっぱり俺たちは普通の人間とは違うバケモノなんだな。 お前もそう思うのか?俺たちに生きる道はねぇってか?異能者には人権が与えられねぇってか?
最強の異能力者、祠堂流星さんよ?』
突如真剣な表情で話し始めるタコス。
『・・まぁ確かにひでぇ話だよな。ちょっとばかし特別な力を持ってるだけで差別されちまうなんて。』
珍しく、他人に同情を見せる祠堂。
『・・そうか!お前には俺たちの気持ちが分かるのか!見直したぜ祠堂、さぁどうだ?
今日から俺たちの仲間に・・』
『・・・くっだらね』
ズン!
『ガ・・ガガ・・』
ドン・タコスの口からたらりと血が垂れる。
『んなっ』
キリュウと酒井が目を丸くしてその光景を見つめていた。“祠堂の手がタコスの心臓部に突き刺さってる光景”を。
『チェックメイトだ。俺はいつでもテメェの心臓を握り潰せる。わざわざ攻撃を当てる必要などない。最初からこうすれば良かったのさ。』
『き・・貴様に人の心はないのかッッ!?』
死を目の当たりにしてガクガクと体の震えが止まらないドン・タコス。対して祠堂の目には一切の容赦はない。
『今更愚問だな。“人”の心?俺たちは最初から“バケモノ”だろーが』
グチャ・・・・
生々しい音と共に戦いは幕を下ろした。
ブルルルル・・
祠堂のポケットが振動した。携帯だ。先にビルに侵入した八坂の班も任務を終えたそうだ。
『どうした八坂。』
『実験に使われる子供達は無事救出した。だけど・・陽動班の瀬尾と槇原が・・』
『なんだと・・』
『どうしたの?』
当時幼く、状況をまるっきし理解していないキリュウが祠堂に尋ねた。
『いや・・丁度今メンバーが二人ほどお空の世界に行った。』
『お空の世界・・?』
『・・あいつらは手遅れだったが、キリュウ、お前は絶対に俺がお空の世界には行かせねぇ。』
祠堂はその場で黙祷をした後、踵を返してエレベーターに向かった。
『・・今日の仕事は終わりだ。お前ら帰るぞ。』
『うん』
俯いたままエレベーターに乗り込む祠堂の後をキリュウはてくてくとついて行った。
『祠堂・・』
酒井は慰めの言葉が見つからず、帰路に着く祠堂の背中をただ見守ることしかできなかった。
“マグナム”壊滅から二日が経過したある日の昼。
祠堂とキリュウは二人が初めて出会った河川敷の芝生で仰向けに大の字になっていた。
棒付き飴を咥えながら空を眺める祠堂の右隣にキリュウも鼻をほじりながら空の方向を眺めていた。この日は雲ひとつない晴天だった。
祠堂が言った。
『悪りぃな。俺の昼寝に付き合わせて』
『いいよ別に。ところでさぁ』
『なんだ?』
『ぼ・・俺の”シンジ“の名前はいつになったら返してくれるの?』
『・・気に入ってるのか?前の名前が。』
『うん・・まぁ。』
『ほーん』
すると祠堂は舐め終わった棒付き飴の棒を口から取り出し、ピッと軽く指で弾いて捨てた。
『お前が俺よりも強くなったら名前を返してやる。それまで“シンジ”は俺が預かっておくことにした。』
『なんだそれめんどくせー』
『へっ、言ってくれるな。気に入らなかったらとっとと強くなるこった。』
心地よい風に吹かれながら祠堂は芝生の上で
目を瞑る。
『(どうしてそこまで俺に強くなる事を望むんだろう・・)』
真横でデカいいびきをかきながら昼寝をしている祠堂の寝顔を見ながらキリュウは疑問に思っていた。
このとき祠堂は目を瞑りながらある事を思い出していた。先日、“マグナム”を壊滅させた日の夜にアジトで行った報告会での事だ。
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『瀬尾と槇原は敵に殺されたんじゃなかったのか!?』
祠堂の下っ端の部下であり、異能力の研究者でもある木崎から手渡された対“マグナム”戦時の報告書をグシャリと握りつぶす祠堂。
『ええ。原因は彼らの体内に宿る“異能”だと判明しました。“異能(人ならざる力)“を使用することによって我々にもたらす影響はとても甚大で深刻なもので・・』
木崎は祠堂にありのままの現実を告げた。
『具体的にどんな影響があるんだ?』
祠堂は冷や汗をかきながら木崎の報告に耳を傾ける
『“異能”には使用制限があるのです。個人差はあるものの、一日に使える異能の回数はおよそ十回まで。この回数を超過すればするほど
使用者の体力と生命力が削られていくのです。』
『まさか・・』
わざわざ聞くまでもない。
『はい。おそらく槇原さんと瀬尾さんも異能力の過剰な使用によって生命力を全て使い切ってしまったと考えるのが妥当です。』
『じゃあ、異能の根源となる力はなんなんだ? 』
『それが・・私にも分かりません。ただ、現代の科学ではとても証明しきれない未知なる領域である事実は変わりないでしょう。』
『下手すれば俺も・・・』
祠堂はそっぽを向いて木崎とは目を合わせず、独り言を言う。
『いかがしました?』
少し様子がおかしい祠堂を見て頭にクエスチョンマークを浮かべる木崎。
『いや・・忘れてくれ』
祠堂はぶんぶんと頭を横に振る。
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この時に祠堂はある一つの決意を固めていた。
『おいキリュウ・・・なんだ寝ちまったか』
瞑っていた瞼を開けてキリュウに話しかけようとするも既にノンレム睡眠に突入している事に気付く。
『はぁ』
祠堂は一度溜息をつき、
『マジで一つもねぇな・・・雲』
・・空の観賞を再開した。
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