第3部 「黒崎寛也編」
11話 新入り
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『オマエら、コイツが今日から俺たちの仲間となる”キリュウ“だ。よろしくな』
通気性は最悪、天井からはチカチカと不規則に明滅する豆電球がぶら下がっているだけの薄暗いアジトの中に祠堂とその仲間たち、そして“新人”のキリュウはいた。
『オイオイ祠堂さんよぉ、アンタの目は節穴かよ。こんなちっこいガキが俺たちの仲間ぁ?まだ小学校にも入ってねーだろ笑わせんな』
両手にメリケンサックを付けたガラの悪いチンピラっぽい男が腹を抱えながら笑っている。
『どーせ私達の足を引っ張るだけだわミスター祠堂』
今度は紫色の髪で肩を露出したボーイッシュだがどこかセクシーさを醸し出す女がヤレヤレと呆れたようにため息をつく。
『まぁ確かに一見生意気なクソガキだが度胸は人一倍ある方だぜ』
ポンッ。
キリュウの頭に優しく手を置く祠堂。
『子供扱いすんなし・・』
キリュウは上目遣いで高身長の祠堂を睨んだ。
『いーや、オマエはまだガキだ。』
『フンッ・・』
『まあそう不貞腐れんなって。今日からコイツらは志を共にする仲間だかんな。』
『・・ところで仕事って具体的には何するんだよ』
『ああ、丁度この後“始まる”からその時になったら分かるさ。今回お前は見学だけしてればいい。』
その時、紫色の髪の女のズボンのポケットが
ブルブルと振動した。携帯の着信だ。
『お、来たか』
女はポケットから携帯を取り出し通話を始める。
『・・ああ、了解だ。我々に任せろ』
女は通話を終了し、ポケットにケータイを突っ込むと視線を祠堂に向けた。
『今回は少し厄介な依頼だ。殺人や強盗だけで結成された凶悪な異能力者集団
“マグナム“の残党が再び暴れ出したとのことだ。どうするミスター祠堂?」
『チッ、また奴らか。皆殺しにしたつもりだったがな・・』
『しかも今回は俺たちの上層部からの直々の依頼だからな』
仲間の男である八坂が腕を組みながら言った。
『・・よし、んじゃそろそろ行くぞお前ら。
キリュウもついて来い。』
祠堂は入り口のドアを開けてアジトから出る。それに続くようにゾロゾロと仲間たちが
彼の後を付いていく。その中にはキリュウも含まれていた。
『ここが”マグナム“の本部だ。』
アジトから車で三十分程移動したところ。祠堂たちの視線の先には外装が真っ黒で巨大なビルが屹立している。
『僕に出来ることは何かないの?』
キリュウが祠堂に尋ねた。
『言ったろ、今回は見学だけしてれば良い。今の弱いお前じゃ足手纏いになるだけだ。
ああそれと、今日から“僕”って一人称はやめようぜ、だせーから。』
『・・じゃあ、お・・俺はいつになったら働けるんだよ?』
『いつになったら?決まってんだろ、俺と並べるくらいに強くなったらだ。』
『・・ほざけ』
『(コイツ度胸だけは一人前なのにな・・)』
とは思いつつもキリュウの得意技である生意気発言には多少慣れてきた祠堂であった。
『お前ら、仕事開始だ。これから班を三つに分けて行動する。まず梶原、瀬尾、八坂の班は陽動を任せる。次に俺とキリュウ、酒井の班がビルの中の雑魚どもを一掃し、最後に小山、砂沢、中村の班は人質の子供達を救出しろ。 目標は最上階だ!!』
梶原と瀬尾、八坂が裏口からビルに潜入した後、キリュウと祠堂含む主力メンバーの番がやってきた。
『一階の玄関から律儀にお邪魔する必要はねーな・・。 ショートカットだ酒井、出来るか?』
『へいへい』
祠堂は酒井と名乗る女に目配せをする。紫色の髪をしたボーイッシュな女のことだ。
シュルシュルシュル!!
酒井の五本の指先から極細のワイヤーが伸びる。全てのワイヤーをビルの三階の袖看板に巻き付け、ワイヤーを縮める勢いでそのまま酒井の身体を上空に持ち上げる。酒井は一気に三階の袖看板の上に着地する。 これが酒井の能力である。 アメコミの某ヒーローの様に指先から発射されるワイヤーは、今回みたく移動手段として用いられるだけでなく暗殺手段としても有効に働く。極細のワイヤーは酒井本人以外の人間には視認する事ができない。この特性を活かし、標的の首に巻きつけ
て絞め殺すことも可能になる。
酒井は袖看板の上から三階の窓を覗き込む。
『幸い中には誰もいなさそうね』
安全を確認した後、窓を開けてフロアに侵入成功した酒井は再びワイヤーを出して下にいるキリュウの体に巻きつける。先程と同じ要領でキリュウの小さな体を3階まで持ち上げた。
キリュウは酒井にお礼をする。
『ありがとう露出ムラサキ!』
『(こんのガキ・・・ッ!祠堂の命令がなかったらとっくにひっぱたいてるのにぃ!)』
こうしてキリュウと酒井はビルの三階までショートカットできた。
『よっ、と。』
祠堂は酒井の手を借りるまでもなく脚力だけで3階の窓まで跳躍してしまう。
『相変わらずバケモンね・・』
祠堂を見て感心する酒井を無視してキリュウがあるものを指差して言った。
『エレベーターがあるぞ』
『ああホントね。これで一気に最上階まで行けるんじゃない?ミスター祠堂』
『・・ああそうだな。だがその前に少々面倒な事が起きたみたいだ。』
ポーン・・と、チャイム音と共にエレベーターが開いた。同時にピストルを持った護衛の男達が一斉にフロアに押し寄せた。
『貴様ら!ここで観念しろ!!』
ジャキジャキッ
男達は祠堂ら三人を取り囲み銃口を向ける。
『チッ、見つかっちまったか。ここは私のワイヤーで・・』
『いや、その必要はねぇ。』
祠堂はすでに戦闘態勢の酒井の右肩に手を置き、そのままグイッと退かす。
『テメェら“マグナム”に雇われた護衛だな?
俺たちを上の階まで案内してくれや』
銃口を向けられてもビクともせずに敵を挑発する祠堂。
『う、うるせぇ!貴様らにそんな事をする義理はない!全員銃を構えろォ!!』
『ふわぁ・・・』
一触即発の危機に瀕しているのにも関わらず祠堂は全く緊張感を持たずに大欠伸をし、顳顬(こめかみ)をポリポリと掻く。
『なっ・・』
祠堂のゆったりとした態度に動揺を見せる護衛兵。
『地雷踏んだなお前ら』
『ど、どういう意味だ!!』
祠堂は欠伸で目から垂れた涙を人差し指で拭き取ると、今度は暴力的で野生的な瞳に変わる。
『お前らは俺様に歯向かってしまった・・』
直後だった。
『シャアッッ!!』
祠堂は獲物を狩る猛獣の様な表情で護衛兵達を威圧しながら襲いかかる。肩までかかった
その白髪をなびかせて、疾風の如く。
『う、うわぁ!来るなぁああああ!』
バンバン!!
護衛兵達は祠堂の突然の豹変ぶりに怖気付き、錯乱する。もはや統率が取れなくなり我武者羅に発砲する。
ズバァッ・・!!
一瞬の出来事だった。キリュウと酒井には祠堂が護衛兵達の間をただ駆け抜けただけに見えただろう。
だが実際は違う。
『ぐわぁああああああ!!!』
護衛兵全員の手首が引き裂かれ、捥げた。
フロアが血の色で染め上げられる。
わずかな返り血を浴びながらキリュウはポカンと口を開けて言葉を失っていた。
『コレが、祠堂(アイツ)の力・・?』
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