第1部 「新たなる戦い編」

2話 日常は非日常の連続ってな


雲ひとつなしの天気の中、聖川東学園では通常通り授業を行なっていた。校舎三階、桐生達のクラスである二年♢組では担任が出席を取っていた。


「斎藤良樹」

「はい」

「佐藤理沙」

「はい」

「佐間宵コウヤ」

「へい」

「士奈美田たおる」

「はい」

「菅原聡彦・・・」


桐生の隣、白石茜という少女の机の上の真ん中には白い花瓶に一輪の花が添えてある。

いつも隣ではしゃいでた分いざいなくなられると殊の外物寂しい。話し相手が欲しいということで前の席を見てみるもそこにも花瓶が。敷島悠人。彼もまた皇楼祭の戦いで犠牲になったのだ。 騒がしかったあの頃が懐かしく感じられる。

休み時間。そんな桐生の事情を知らない愚かなクラスメイトの三人が机の周りに集まって来る。大方皇楼祭優勝に対する褒め詞だろう。


「桐生、お前皇楼祭優勝したんだって?すげぇなぁ」

「まぁな。」

取り敢えずテキトーにあしらう。

「ところでよ」

だが次の一言に思わず耳を疑いそうになった。

「前々から気になっていたんけどなんでお前の隣と前の席に花瓶なんか供えられてんだ?」

何をいっているんだ?桐生は目を丸くする。

「何鳩が豆鉄砲を食ったような顔してんだよ」

悪い冗談はやめてくれ。ついこの間まで一緒に授業を受けていたじゃないか。

桐生の口からなんて言葉を発したらいいのか分からなかった。


「なんかウチのクラスの男子一人と女子一人が死んだって担任が言っていたけど、クラスで死んだ奴なんていた覚えねーし、そもそも最初っからそこの席とそこの席余ってたよな?」


「・・何を言っているんだお前らは?白石茜と敷島悠斗だよ。」

「白石?敷島? なあコウスケ知ってるか?」

「え?聞いたことないけど・・」


馬場コウスケ。敷島の隣の席で敷島とは一番仲の良かった奴だった筈だ。


「いやいや、敷島と休み時間よく喋ってたのは馬場だろ?」


最初はコイツら三人が組んで俺をからかってるんじゃないかと思った。


「桐生、今日のお前なんか怖いぞ?」


怖いのはお前らの方だ。その一言が出かけたが喉に引っかかる。 彼らの目に偽りは無かった。冗談で言っている目にはどうしても見えない。

もしかしたら俺が今まで幻を見ていたのではないか?疑問のベクトルは彼らではなく自分自身に向くようになる。だが桐生は諦めない。

放課後、駆け足で職員室に入り、担任に敷島と白石の顔写真を掲示して人差し指で指しながら彼らの所在、もとい生死について尋ねた。


「うーん・・ごめんね、ウチの生徒にそんな名前の子は居ないし顔も見たことないなぁ」


「じゃ、じゃあ机の上の花瓶は・・?」


「ああ、教頭から聞いたんだ、どうやらうちのクラスメイトが二人亡くなったらしいんだ。先生には何も身に覚えないんだけどねぇ。何もしないのも縁起悪いから念のため・・ね。」


桐生は膝から崩れ落ちた。同時に確信した。

二人の存在は自分以外の人々の記憶から抹消されているんだ。あまりのショックに身体に力が入らない。


「桐生君、しっかりしなさい!」

「だ、大丈夫です先生・・。目眩がするんで

早退します。」


桐生は家の部屋のベッドの上で仰向けになりながら白石と敷島の写真と二時間ぐらい向き合っていた。 刹那、彼等との思い出が頭の中を駆け巡る。


-まずは白石。彼女に初めて出会ったのは桐生が5歳ぐらいの時だった。公園の砂場で一人寂しく遊んで居たところ小学生の悪ガキ達に邪魔されて・・そこに彼女は現れ、一人アイツらに立ち向かい、フルボッコにした。 俺はあの時恐怖のあまり目を瞑ってしまっていた。きっとあの子はひどい目に遭ってしまう。

だが実際に目の前に映っていた光景は違った。彼女はたった一人で悪ガキ達を張っ倒した。

それから四年後の出来事だった。中学生になった例の悪ガキ達が俺にこうべを垂れて謝罪してきた。

「あの時は俺たちが悪かった」と。器の大きい俺は当然ながら許してやった。まぁ所詮は昔の話。これで奴らとの因縁はおさらばだ。

だが次の瞬間、俺は意表を突かれた。


俺が背を向けた瞬間、奴らは俺に殴りかかってきた。

「なーんちゃってなぁ!俺らがテメーに謝る義理なんて何処にもねーんだよ!!」

奴らは俺の頬を引っ叩いた。脇腹を蹴っ飛ばした。何も抵抗できぬまま蹲る俺を踵で踏みつけた。

「おっとこの辺にしておくか。誰かに見られたら面倒だしな。スッキリしたぜ!じゃあな!!」

そう言って悪ガキ達はそそくさと去っていった。

これを機に俺は他人が信じられなくなっていった。


- やがて俺は聖川東学園に入学する。敷島悠人。やつとは一年の頃から同じクラスだった。仲良くなったきっかけは確か俺が当時大好きだった深夜アニメ「まきばのウッシー」の話で盛り上がった事だった。アニメの内容は牧場の雌牛が突然人格を持ち始め、酪農家の男に恋をして、なんだかんだあって人類が滅亡して環境に優しくなってハッピーエンドって言うものだ。(今思えばクソアニメ)

雌牛のウッシーは語尾に必ず「もー」を付けていた。それに憧れた(?)のか敷島も語尾に

「もー」を付ける癖がついてきた。

敷島とは本当に仲が良かった。だが一度だけ喧嘩をしたことがある。きっかけはくだらないものであった。俺が敷島の家に遊びに言ってた時、敷島から借りた「まきばのウッシー第二期」の円盤を間違えてハンバーガーに挟んで食べてしまった。柔らかいパンとジューシーな肉に包まれた円盤の織りなす金属のバリバリした食感がたまらなく最高だった。

敷島はガチギレして俺の背中にボディプレス

をぶちかましてきた。俺は全治三ヶ月の大怪我を負った。だがこればかりは自分が悪かった。敷島の目は本気だった。怒りの中に僅かながら哀しみが籠っていた。それほどお気に入りのアニメだったんだろう。やがて俺は敷島と和解し、一年生は終わったんだっけ。


「ぐす・・いけね、何泣いてんだ。」


桐生は袖で涙を拭った。懐古の念に駆られていたその時、電話がかかってきた。桐生は電話にかけつけて受話器を外す。


「誰だ?」

「もしもし?俺だよオレオレ。」

「もしやテメーオレオレ詐偽だな!?」

「違う違う!オレだよ、馬場コウスケ!」


桐生のクラスメイトだ。


「何の用だよ?」

「いや実はさ、昼間のことお前に謝らないといけないなって思って・・」

「昼間?」

「あれだよ。えーっとなんだっけ、白石って子と敷島って子がどーたらこーたらって。

俺が彼等の事を知らないのは本当なんだ。

お前の気持ちを考えずに軽率な言動を取ってしまった事に少し後悔しているんだ」


桐生は一度溜息をつくと再び口を開いた。


「ああいいんだそんな事。お前らは本当に2人のことを知らないんだろ?なら何も悪くないって。」


「本当に?本当に許してくれるのか?」

「最初から怒ってた訳じゃねえしな」

「すまなかった。」

なんだそんな事か。桐生が呆れて受話器を置こうとした瞬間、焦ったような声が聞こえてきた。

「ま、待ってくれ!まだ切らないでくれ!!

もう1つだけお前に伝えなくっちゃいけないことがあるんだ!」

「・・いいニュースか?悪いニュースか?」

「どっちかって言うと・・悪いニュースかな」


一体なんなんだろう?今日は疲れたからいい加減休ませてくれ。桐生はそう思っていた。

少なくとも、この後の彼の一言を聞くまでは。



「俺は今お前の家の前にいる!日本刀を持った黒服のスーツの男達に追われているんだ。

頼む匿ってくれッッ!!」















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