求めていた俺 sequel
メズタッキン
第1部 「新たなる戦い編」
1話 復活の桐生
少年はとある病室のベッドで横たわっていた。
「こ・・こは?」
少年の視界に映るのは白いタイルで敷き詰められた病室の天井だけだ。
ヌッ。
一人の看護師の顔がその視界を埋めつくす。
「あ、目が覚めましたか。」
「病院・・すか?」
「患者さん皇楼祭の闘技場で倒れたかと思えば、暫く目を覚まさなくて・・大変だったんですよ?かれこれ2日半は眠ってました。」
「そう・・ですか。」
二日半も眠り続けてたことには多少の驚きもあったが今の彼にはそこまで重要なことには思わなかった。それよりも、
「看護師さん・・」
「・・ええ、分かっています。お友達の白石さんや敷島さんの事はお悔やみ申し上げます。」
「はい・・本当に残念です・・」
桐生はただ疲れていた。長きに渡った戦いに疲弊しきっていた。
「それはそうと、皇楼祭優勝おめでとうございます。今年デビューで凄いですね。」
「ありがとうございます・・」
桐生はこれまで多くの人の期待や希望を背負い戦ってきた。そして結果的に世界を救った。 充分だ。充分な筈なのだ。それでも何故だろうか。充足感は一向に満たされることはない。ではその充足感とは何なのだろうか。物心ついた頃からずっと疑問に思っていた。
自分は常に「何か」を求め続けている。
桐生は両目を見開いたまま瞬きもせず口も開けっぱなしで、放心状態である。
こんな入院生活は一ヶ月続き・・
退院の日がやってきた。
「復活ッッ!!」
「桐生さん、今日で退院ですね」
「はい、ピンピンっす!」
看護師はニッコリ笑った。
明日から学校にも行けるそうだ。
桐生は病室を出る。廊下をしばらく歩くと右手方向に一瞬だけある物が目に映った。
一つの病室のドア付近に掲げてあったルームプレート。名札だ。
「黒崎寛也? どこかで聞いたことあるような
・・・まあいいか。」
桐生はそのまま病院を後にした。
ATMで貯金十万円下ろし、ファミレスで夕飯を食べて、ビリヤード、ボーリング、一人カラオケ、バッティングセンターに寄り道した後帰宅した。外はいつの間にか夜になっていた。
これだけ娯楽を嗜んでも桐生の中のモヤモヤは解消されない。友や幼馴染を失ったから?まぁそれも多少はあるがそれすらも取るに足りないと感じてしまう。
おかしい。違和感を覚えた。
「(あれ・・俺、今とんでもないことを考えていたのか・・?)」
午後二十三時。 暗闇に包まれた一個の白い建物があった。桐生の入院してた病院だ。閑散としたロビーの椅子に、一人の女性が腰掛けている。女性の胸ポケットがぶるるるっと音を鳴らし振動している。携帯電話に着信が来たようだ。「非通知設定」の文字が書かれてあった。しかし女性は躊躇わず通話を開始する。
そこから若い男性の声が聞こえてくる。
「・・俺の企てた計画はまだヤツにバレてないだろうな?」
「はい。事は順調に運んでおります」
「ならかまわん。 ・・お前は看護師の姿でヤツの監視に当たった。いいアイデアだった。」
男は暫く黙り込む。看護師には何を考えているのか分からない。看護師は言葉を紡ぐ。
「どうかなさいましたか?」
「一つ懸念事項がある。お前はヤツに俺の素性をバラしてないか・・だ。まさかとは思うが・・」
「とんでもないです!私は決してそんな事いたしません。」
「うーん、本当かなぁ?悪ぃな。俺は例え誰であっても疑ってしまう性分なんだ。お前は俺の計画を既にヤツに漏らしている可能性もあるし、ヤツと共謀して俺を殺そうとするかも知れない。 あ、そうだ!お前今すぐ自害
しろ。きっとお前は俺に対して不満を抱いている。そういった存在は害悪でしかないんだ。」
「そ、そんな・・。」
看護師は青ざめた顔で唇を震わせている。
「すまんな。俺の心配性はどうしても治らなくってなぁ。ただお前は俺の為に尽くしてくれた。礼だけは言っておくぜ。あばよ」
男はそう言って通話は切れた。
その瞬間。看護師の目の色が変わった。そこには感情なんてものは一切存在しない。まるで精密な機械のように、操り人形のように。看護師は胸元から拳銃を取り出し銃口をこめかみに当てた。
一切の躊躇なく引き金を引く。
バァン!!
夜の病棟に鋭い銃声が響く。
翌朝。桐生は久々に登校した。聖川東学園。彼が通う高校だ。近々、妙な噂を耳にする。
お面をつけた怪物が夜な夜な校舎を彷徨い、そこに迷い込んだ者を地獄へ引きずりこむ、と。まあそんなもの根も葉もない都市伝説だろう。桐生はそんな事を考えながらホームルームのドアを開けた。
「あ、桐生君おはよう。」
担任の先生がニッコリと笑い挨拶をする。
桐生は教室全体を見渡してみる。 そこには人1人いない。 これはもしかして!
「あの、先生、もしかして俺1番乗りっすかぁ?」
普段遅刻続きの桐生もとうとう記録更新かと思いきや。
担任はポカンと口を開けている。
やがて真顔で告げた。
「今日は日曜だぞ」
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