配達人

朝楽

第1話

 玄関のチャイムが鳴った。そして漠然とした意識の後に、自分が眠っていたことを知った。男は生理的な反射として、返事をする。今日、宅配便が届くんだっけ。すぐには、腹筋に力が入らない。仕方がないので体を横に転がせてうつ伏せになり、腕の力で体を起こす。

 おぼつかない足取りで玄関へ向かう途中、彼は不意に振り返り、部屋の時計を眺めて、頭を抱えた。玄関の扉が開かれた先、冷たい風が吹きすさぶ部屋の外に、配達人が、にこにこしながら待ち受けていた。

 「こんにちは、宅配です。」

 「あぁ、はい。有り難う、ございます。」

 「こちらに、サインをお願いしてもよろしいですか?」

 「ええ、まあ。」

 「今日はお休みなんですね。」

 「ええ、祝日ですからね。」

 「休みがあって、うらやましいです。」

 「ああ、ご苦労様です。」

 荷物を受け取って、配達人が行ってしまった。部屋の変化は荷物がひとつ増えたことと、男の眠気が少し引いたことだ。しかししつこく漠然とした雲が男にまとわりついていた。はっきりしない意識の中で、男は配達人の苦労と、自分のだるさを、ひき比べていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

配達人 朝楽 @ASARAKU

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ