✅かがり高校の日常⑫ 無敵管隊の長


かつて、このかがり高校には男子禁制とされる女の園があった。


過去には全国大会連続出場、無敵管隊・・・・と称された、かがり高校吹奏楽部である。当時の部員構成は、ひとりの男(全ての権限を有する部長)と、あとの全員は女(平部員)だった。三年間、一代限りの栄華ではあったが、この男子部長の卒業をもって【かれよりさきに男はなし、かれよりあとにも男はなし】という、男子生徒の徹底排除が掲げられた。女子結束体制は十年続いたが、部活動としては低迷期を迎えることとなる。


この悪しき慣習に終止符を打ち、ガリコー吹部の歴史を変えた男が、西村だ。


西村は、蝶よ花よと育てられた(※本人談)有名な音楽一家のお坊ちゃん。

祖父は高名な作曲家、父は芸術監督、母は声楽家、そして兄は主に欧州で活動するイケメン・ピアニスト。音楽に愛されし偉大なる西村家は、都心に大豪邸を構えていて、一族のものは生まれた瞬間から伝統ある音楽学校への入学権利が与えられている。

しかし西村は、中二の頃に『家族とは別の道をゆきます、かがり高校へ進学し仲間意識を学んでまいります』と決意表明。――誰も止めなかった。

中三の頃には『かがり高校は吹奏楽の名門校です。こちらで青春を謳歌し、お友達をたくさん作るのです!』と再度決意表明。――家族を泣かせ……否、爆笑させて出てきた。


桜が咲いて。


西村、入学と同時に吹奏楽部のもとへと突撃した。が、かれの入部届の用紙は受理されることはなかった。目の前でまふたつに引き裂かれて、その残骸は「男! 男! 男!」と摩擦で消し炭になるまで踏みにじられたとか。獰猛な雌ライオンの集団に囲まれて西村、「おれは動物園に来てしまった…………」と、かがり町サバンナの中心で放心した。


が、どうしても吹部に入り隊!


というわけで西村、戦争をした。


西村は楽器が大好きだ。

というより楽器狂いだ。

幼い頃から楽器収集の癖があって一通りの楽器を扱える。


ゆえに、かがり高校吹奏楽部の全ての楽器パートと演奏対決をして、連戦連勝!

気がつけば部長の座までかけて戦っていた。そうして入学早々西村は、一年生ながらも新部長に就任する、という異例の快挙(暴挙ともいう)を成し遂げたのだ。


新部長の西村曰く、

「皆さんのガチョウの狂い鳴きのような暴音を全て、清音へと導きます!」「おれの声に従わんドテカボチャどもは、追放に処す!」

毎日毎朝毎晩、ハイパーボイスで繰り返し、植えつけた。

「貴様等のトラウマなんぞ知るか――ッ!」

西村には、性別女子とか関係ない。

部員も、顧問も、外部講師までも、恐怖指導というか恐怖政治で、わんわん泣かせた。


そうして二度目の春が近づく頃、かがり高校吹奏楽部は全国大会へと出場していた。

どんな魔法を使ったのだろう、近年は地区予選で姿を消してばかりだったのに――だなんて、ひそひそ声の蔓延する都心の会場。

壇上で指揮を執る西村は凛として美しく微笑んでいた。

それを見ていた他校生の中に、たまたま西村家ことを知るものがいたのだという「あの学校、コンクールのために、魂を売ったんだ!」と入賞の疑惑を発信した。その噂が全国を駆け巡り、巡り巡って、かがり高校にまでたどりついた。【西村 奏。部員生徒の魂と引き換えに功績を与える、音楽室の悪魔】と、呼ばれるようになった所以である。


忍が西村と親しくなったのは、この頃だ。

辺りが暗くなっているのに、音楽室にぽつんとひとり残っていた。

誰もいないとおもって、かれは密かにピアノを弾いていた――……


ひとの好き嫌いが激しいし、敵味方をきっぱりと線引きするので「性格がきつい」「笑顔に裏がある」などと、西村を苦手とする生徒が多いのは事実である。


けれども本当は心優しく繊細。

仲間想いだし、誰よりもまっすぐな性格だということを、


忍だけは知っている。


 

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