たかしの日常

✅モノローグ


『鷹史、偲び川ってさ』



隼人はやとおれんじの夕日に照らされて、穏やかな横顔も、風に流る髪もあかく焦がれて見えた。

健康的な肌の色も、自転車のハンドルへと伸ばされた腕も全て、あかだった。


『どこまで流れているか知っているか……』


夏が終わって、会えなくなっても。

来夏まで、ふたりはずっとこの川のほとりに繋がっている。

たとえ岸は違えども――


『そんなこと、鷹史は考えないか』


考える、とても考えるんだ、隼人。

夏がひとつ終わる、夏がまた去ってしまう。


『来週、ひとまず大会が落ち着くから。鷹史はいつだったら時間が取れる? 帰り道以外でも……会いたい』


そう言って隼人はもっと、あかくなった。


『へんなこと、言ったかな』


言ってない、隼人。

それは俺が、俺自身がずっと堪えてきた言葉。でも、



『へんだよ。夏は、たまたま帰る道がおなじだけなんだから』



『だよな』


隼人の笑顔は、酷く優しく、切なげだった。

優しい隼人。

それに比べて俺は……その時の、俺の顔はどんなだったか。

無表情で、感情のないって、おもわれるような顔だったか。


『困らせてごめん、鷹史』


ごめん、隼人、ごめん。


『ごめん、鷹史……』



そうして今年も、夏が終わってく。

かがり町を去ってく――

ふたりの夏は、いつも短くて、変化のない、

はずだった。



『いや


 ――たまには会おうか、かがり町の夏祭り』



隼人と、


『来週だろ。今年は行ってみたい』


一度くらいは、隼人と。


その瞬間、彼の手を離れた自転車が道に倒れた。

見たことないほど間抜けだった彼の顔に、笑ってしまった。

笑ってしまったんだ。


隼人とのことは、全ておぼえている。

会話だけじゃない、戸惑う表情も、手のひらの熱さも、

その鼓動の早さも――


隼人のものか、俺のものか、合わさってわからなかった。


ああ、もう失敗したと。

この時すでに鷹史おれは知った。


 

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